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「藤山扇治郎」スペシャルインタビュー
取材日:2021.06.05

NHK連続テレビ小説『おちょやん』の主人公のモデル浪花千栄子が在籍したとして、
新たな注目をあびる松竹新喜劇が、
2015年8月公演以来、6年ぶりとなる夏公演を開催。
新作喜劇『一休さん』の主役、一休さんを演じる藤山扇治郎さんに話を伺いました。
とんちをあやつる一休さん、本当はこんな人だったんじゃ?という人物像から、
新喜劇の未来を担う世代として、熱い思いがてんこ盛りです!

アニメでおなじみの一休さんですが、変わり者としての武勇伝も多く残っています。いったいどんな人物だったと思いますか?

一休さんといえばとんち。ユーモアがある人だと思うんです。ちょっと変わった人だったようですが、それは、普通の人が思いつかない自由な発想があるということ。とんちって、新喜劇のアドリブと似てるなと。臨機応変な対応で言葉を発したり、相手役を助けるために働かせる知恵でもある。それができる一休さんを見ていると、藤山寛美のおじいさんと重なる時がありますね。一休さんはお坊さんの世界に居るけれど、人と人との絆や心の機微がわかる、庶民の心を持った青年なのでは。その点を意識して演じられたらいいなと思います。


とんち=アドリブ。もし一休さんが新喜劇にいたら、名役者になっていたかもしれませんね。

僕たちがやっているお芝居は、元をたどれば「にわか」、即興的なもの。特に喜劇には笑いを通して世の中を明るくするための人情や道徳、説教みたいな要素が含まれているので、教えを使って困っている人を助けるお坊さんに通じるものがあるかもしれませんね。これまでも松竹新喜劇には、子供の心を持った大人や一筋縄ではいかない変わった人物が登場し、周囲の心を動かす展開へ物語を導く作品があって、これは新喜劇の伝統芸ともいえる。もしかしたら一休さんは僕らの大先輩かもしれませんね。

作・演出は今年1月の『二階の奥さん』を演出した京都の劇団THEROBCARLTONの主宰・村角太洋さん。普段旧作を上演することの多い松竹新喜劇で、外部から演出家を招いての新作は刺激的なのでは?

そうなんです。現場に物語を創った人がいるので心強い。本に込めた思いを直接聞けるじゃないですか。新喜劇は過去の名作をやることが多く、古典だとわからないことも多い。どうやったら形になるかという「レシピ」はあるんですよ、でも一緒に作っていけない箇所もある。新作は全員が初役ですし、一緒に料理を作ることができるので、『一休さん』がどんな味に仕上がるのかほんとに楽しみなんです。




時代の空気感も取り入れていくことも刺激になるのでは?

新しい「今」の感覚で新作を描いていただけるのは、僕ら役者にとってとてもありがたい。新作で学んでいかないと、旧作の良さもわからなくなってしまうでしょ。旧作は良い作品ばかりなんですが、それに頼ってしまうと新しいものが生まれなくなってしまう。挑戦していかないと。元々旧作だって当時は新作だったわけですから、僕たちは今回の『一休さん』を再演できるようにしていかないとだめだと思うんですね。これは役者にとって大事なこと。新しい風を取り込んで、若い世代にも新喜劇の面白さを届けたいですね。もういっそのこと学校で公演などをやってもいいかも?思い出に残るし、新喜劇の良さも伝わる。こういう取り組みを僕ら世代がやって行けたらいいですよね。

『おちょやん』で千代の子供時代と千代の姪を演じた毎田暖乃さんが今回初舞台を踏まれますね。一休さんを騒ぎに巻き込むきっかけをつくる女の子役です。

そうなんです。毎田さんは子役さんですが、大人と話しているような感覚があり、逆に教えられることも多いんです。子供と動物とは同じ舞台に立つなという言葉もありますが、毎田さんは最強。いい意味で化け物級なのでは。なぜだか、直美(藤山直美)のおばさんと共演した時以来の緊張感がありますよ。稽古が楽しみです。

新作喜劇『一休さん』のほか、久本雅美さんがゲスト出演される『愛の小荷物』も上演されます。昭和10年(1935)から演じられている名作ですね。

1970年代に何度も再演されて人気を博した作品です。演出にわかぎゑふさんを迎え令和時代の『愛の小荷物』を上演します。ちょっとヘビーな題材を、久本さんと曽我廼家文童さん演じるおせっかいな兄妹が新喜劇の神髄である「泣き笑い」で見せる作品ですので、今回の上演作は2本とも、人を思いやる気持ち、世の中を明るくするというテーマがしっかり感じられるのではないでしょうか。

『愛の小荷物』には赤ちゃんが登場しますが、昨年の9月にお子さんも生まれ、ご自身に気持ちの変化はありましたか?

家族が増えるってすごい出来事で、生活パターンが変わりました。ご飯もお風呂も子供優先になるし子供の存在って大きいですね。これって親バカなんですけどね、息子が寛美おじいさんとそっくりな顔をする時があるんです。特に口を開けてびっくりした時の表情は本当によく似ていて、僕が二度見するほど。自分を介して血が繋がっているなと思う不思議な瞬間です。

コロナ禍の自粛ムードも2年目を迎えました。そんな時勢での公演に挑む気持ちを最後にお聞かせください。

ずっと家にこもって、外に出る機会が少ない方も多いと思います。だからこそ劇場に足を運んで、泣いたり笑ったりして、心のリフレッシュをしていただけたらなと思います。

◎Interview&Text/田村のりこ
◎Photo/来間孝司



7/10 SATURDAY〜18 SUNDAY
松竹新喜劇 夏まつり特別公演
■会場/京都四條 南座
■開演/各日 [午前の部]11:00 [午後の部]15:00
※11日(日)・15日(木)午前の部、18日(日)午後の部は貸切
※12日(月)・13日(火)のみ午前の部一回公演 ※14日(水)は休演日
■料金(税込)/全席指定 一等席¥11,000 二等席¥5,000
三等席¥3,000 特別席¥12,000
■お問合せ/京都四條 南座 TEL.075-561-1155