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「coba」スペシャルインタビュー
取材日:2014.12.17

国境を越え世界の音楽シーンに影響を与え続けるアコーディオニスト、coba。
’11年の創刊号で表紙を飾って以来、MEGはそのアーティスト哲学に迫ってきました。
そして記念すべき25号に、再びカバーアーティストとして登場。
自身初のカバーアルバムを携えての全国ツアーを前に、
最新のcoba語録をお届けします。

昨年1年を振り返ると、どんな年だったでしょうか?

ソロツアーを4月までやって、僕の誕生日で終わりました。僕にアコーディオンをくれた父親がツアーの初日に亡くなったこともあって、僕にとって非常に思いの深いツアーになりました。その後は、毎年音楽を担当させていただいている沢田研二さんの舞台音楽も作らせていただいて。昨年の僕を漢字一字で表現すると「多」でしょうかね。多忙、多様ということで。いろいろなことが起こった1年でした。あとは、晴れ男になりましたね。コンサートなどの、何か大事なことがあると必ず雨が降っていたんですよ。ジャズフェスなんかだと台風が来ちゃうし。「嵐を呼ぶ男」という曲も作りましたけどね(笑)。それが昨年、父が亡くなってから降ったのは1日だけです。人は「お父様が守ってくださっている」とおっしゃるけど、僕にしてみたら「なんだ、親父が雨男だったんだ」っていう(笑)。その後、東儀秀樹さん、古澤巌さんと組んだユニット「TFC55」のツアー、アルバム制作もありました。やっぱり新しい曲を作っていかないとダメですから。不景気だからといってアーティストが束になって自分の定番曲をやっているようなものでは、必ず終焉を迎えてしまいます。今までやってきたことをそのまま踏襲することは楽だし、安心です。でも、それではアートじゃないんですね。そんな人生つまらない。


そして年末にはご自身のアルバム「cobacabada」をリリースされました。初のカバーアルバムですね。

僕のアルバム制作は全てを同時進行で行います。何かをパッと決めてそれに従ってモノを作るというのはあまり得意でも好きでもないので、全てを同時進行させながらごった煮のように作っていくんです。その矛盾とかノイズのようなものが同居してこそ面白いと思うから。今回も御多分にもれずいろいろ悩みました。そもそも、なんでアコーディオンでこんなことをやるんだろうと。バリー・マニロウの「Copacabana」とかミルトン・ナシメントの「Travessia」とか、彼らが歌った方がいいに決まっている訳ですから。こういう名曲を何のためにアコーディオンで表現するのかという話ですよね。それで結局戻ってくるのは、僕はこの曲をアコーディオンで歌いたいんだということなんですよ。それ以外の何ものでもない。子どもが得意なものを自慢したいという欲求。それですよね。例えばケーキ作りが得意な人は、自分のケーキが人に喜んでもらえるからパティシエを目指すでしょ?僕の場合はアコーディオンが好きで、この楽器の存在を正したくて、世間が抱いていたイメージを変えたくて自分のアーティスト人生を始めました。やっぱりそこに尽きるんですよね。好きなものが誤解されたら嫌だし、自分の好きなことは自慢したいし、それによって人が喜んでくれる。これは何よりの喜びですよね。


デビュー以来、「ソロ(独奏)、カバー、伴奏」の3つをご自身で封印してこられたそうですが、それは「いつかはやろう」という意志の裏返しなのではないかと、今回のアルバムを聴いて感じました。

きっとそうなんだと思います。3つの封印がどうしたとか、実はこれは本来あまり本質的なことではないんですね。物事を変えるということは、その本質を見極めること。真剣に愛するからこそ大胆に改革する。僕が18歳でイタリアに行ったのはそこなんですよね。アコーディオンが誕生したヨーロッパで、この楽器が何故生まれ、人々がどう育み、どんな思いを抱いているのかを知りたくて行った訳です。そんな場所だからこそ、僕のような反逆者…今の時代にアコーディオンはこれじゃダメなんだ、と言う人もいるだろうと思って出かけたんですが、そういう出会いはなく、結局自分でやらなくちゃという結論に至りました。冒険心を持って本質を探りに行こう、それと真正面から向き合おうというあの旅がなければ、僕の今の人生やアーティスト哲学はなかったと思います。


選曲については、どのような観点でなさったのでしょうか?

悩んだあげく、やはり私小説を語ることだろうなと。カバーアルバムという大コンセプトはいいとして、実際にモノを作るときには、そのアーティストを切り裂いてお見せするしかないんです。前作ではそれなりの僕の私小説を語らせていただき、今回、人の曲でそれをやる意味で、自分に多大な影響を与えてくれた、あるいは自分でも気づいていなかったようなことを再発見することも含めて、自分の人生を振り返るということを真摯に行わないといけないと思いました。ですから、僕に道をくれたピアソラの「リベルタンゴ」は外せませんでした。これは、バンドメンバーもとても楽しんでくれる曲。それをぜひ、今回のアルバムには刻印したかった。又師匠ニーノ・ロータは、フェリーニとのコンビでこそ真価を発揮する天才ですが、今回は敢えてルネ・クレマンとの「太陽がいっぱい」を取り上げました。この曲にはロータのメロディメーカーとしての本質を強く感じます。「Bittersweet Samba」は名古屋に住んだ少年時代の思い出です。「オールナイトニッポン」のテーマ曲ですよね。受験勉強するふりをしてラジオを聴いてたから。いろいろな人がカバーしていますけど、次にカバーをするときには、これをやりたいなとずっと思っていた曲です。スティービー・ワンダーの「IJustCalledtoSayI LoveYou」は、U2のボノとの思い出の曲なんですよ。友人のプロデューサーHowieBがU2のアルバムをプロデュースしていた時期に、日本で彼らのドームツアーがあり、3人で会ったんですよ。そのとき、ボノが「カラオケに行ってみたい」と言うので連れて行って。僕が唯一英語で歌えたのがこの曲で、ボノが「coba、お前、歌いいよ。アコーディオンだけ弾いているのはもったいない。歌いなさい」って、歌っている僕の肖像画を描いてくれました。僕の思い出の中でも宝物のひとつですね。そんな風に、僕の人生の出会いが詰まったアルバムです。


ツアーはアルバムの楽曲を中心に…。ライヴで心掛けていることなどをお聞かせください。

お客様を喜ばせるということについては、もっともっと考えたいです。結局、人の目線になるということです。例えばレストランなら、客がそのテーブルに座ってどう感じるか。食事をしてどう感じるか。それを把握しているのがサービスマンで、その目線が心地よければ客は戻ってくる。自分本位な身勝手さから出た技であれば、それは客には伝わらないんです。我々アーティストも全く同じ。人の目線になって私小説を語る。この矛盾こそエンターテインメントの醍醐味だと思います。



3/27 FRIDAY
coba tour 2015 cobacabada
チケット発売中
■会場/ウインクあいち
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 ¥6,000 
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可