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「朝倉あき」スペシャルインタビュー
取材日:2019.10.17

今から100年ほど前、明治末期から大正初期の時代を生きる“新しい女”たちが、
互いの意見を忌憚なく述べ、活発に論じ合う“場”があった―。
劇作家・演出家の永井愛が主宰する二兎社の
新作『私たちは何も知らない』で取り上げられるのは、
女たちが抱える諸問題をクローズアップしたことで
日本の歴史にその名を残す、雑誌「青鞜」のメンバーたち。
この群像劇で、「青鞜」創刊号にあまりに名高い創刊の辞
「元始女性は太陽であつた」を執筆した「平塚らいてう」を演じる朝倉あきが、
作品への意気込みを語ってくれました。

今回、「青鞜」の発起人の一人である平塚らいてうを演じられます。

平塚らいてうについては、教科書で名前を知っていた程度だったのですが、今回の出演のお話をいただき、いろいろと調べていくうちに、「青鞜」という名前のかっこよさにもひかれましたし、改めて、彼女を演じさせていただくことが誇らしく思えてきましたね。心中事件を起こして話題になったり、いろいろとエキセントリックなところが知られていますが、実は、思慮深く内向的な女性だったということもわかってきて。私自身、彼女のもつギャップに、ジワジワと魅力を感じていっています。


らいてうとご自身とで何か共通点を感じるところはありますか。

らいてうは、若いときから自己が何たるかということを考えていた人だと思うんですね。私も、周りに何かを求めるというよりは、自分は今何がしたいんだろうとか、自分の何がいけなかったんだろうとか、自分自身に矢印を向けて考えるということをよくするので、そこは共通点なのかなと感じています。私とらいてうさんとの間にどんな共通点を感じていらっしゃるのか、永井さんにお聞きしてみたところ、「品があるところと、天然が入っているところ」と言われました。品の方は自分ではよくわからないのですが、確かに、天然というか、深く考えずに行動してしまうところは心当たりがあるなと思って(笑)。

彼女の書いた「元始女性は太陽であつた」という一文はあまりに有名です。

強烈な一文ですよね。でも、らいてうは、自分の意見をまっすぐもっている気の強いキャラクターではないと永井さんはおっしゃっていて。その一つの特徴として、彼女は声が小さかったそうなんです。ぼそぼそぼそとしゃべって、周りが「えっ?」となってしまうような感じだったらしくて。それを聞いたとき、私もびっくりしたんですが。大声でみんなに語りかけていく感じではなく、彼女の漏らすわずかな言葉と、滝のように生み出す文章、そこに、周りの人たちがひかれていったということなんです。


永井さんの演出についてはいかがですか。

『書く女』(2016)で樋口一葉の妹を演じた以来で、再び永井さんの演出を受けられることを夢のように思っています。稽古期間と公演期間を経て、またどんな宝物を見付けられるのか、自分の中で何を生み出していくことができるのか、自分でもとても楽しみにしていて。永井さんは情熱的な演出をされる方で、お芝居において、何のためにこの言葉を言使うのか、役者自身でとことん考えるということをとても大事にされていると思うんですね。私の中から言葉が出てくること、私自身の言葉として出てくることを求めていらっしゃる。そんな永井さんの演出によって、教科書の中でしか知らなかった時代の人物がだんだん自分に近づいてくるという不思議な感覚を、『書く女』のときにも味わうことができました。今回も、勉強していくということではなく、いったん自分の中に沈めて、自分の経験や感じたことも大事にしながら役を創っていくという作業をしていきたいと思っています。


100年前の女性との距離感をどのように感じていらっしゃいますか。

だいぶ開きがありますよね。今の女性は、当時のように早く結婚することを求められてはいないと思いますし。女友達と一緒に飲食店に行くことも普通ですし、恋愛もする。でも、100年前は、そういうことをしていただけで「ヤバイね。終わったね」と思われていたような時代だったわけで。ただ、今の女性も、自由に振る舞えているようで、やはり問題視されてしまう事柄というものはあって、それに対して静かな怒りを感じていたりもする。そこをどのようなエネルギーをもって乗り越えていくかということを、今回、永井さんは「青鞜」の女性たちというテーマを通して描いていらっしゃるので、きっと多くの方に届く作品になると思っています。「青鞜」の時代、名のある女性から名もない女性までが自分の意見を寄稿したそうです。それまでにない意見が活発に交わされたことで、賛否がありながらも新たな考え方や価値観が世間に伝わって、少しずつ社会が変わっていったんだと思うんです。

今回、明治~大正期の女性たちを、現代女性の服装で演じるという演出も興味深いです。

「昔の時代のことではなく、今の時代にも共通する問題であることを、観ている方に感じてほしい」と永井さんが演出の意図についておっしゃっていたんです。私が演じるらいてうは「わたくし、〇〇だわ」としゃべる人なので、服装とのギャップがおもしろくて。その違和感も含めて楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。『書く女』の舞台に立っていて、とても不思議な気持ちを感じた瞬間があったんですね。自分が自覚している以上に、役が自分の身に降りてくるような感覚があって。私、あんまり心霊現象とか信じる方じゃないんですが、あのときばかりは、昔のイタコと役者の共通性について考えずにはいられなかった(笑)。今回の舞台でも、そんな、役が降りてくるような体験ができるんじゃないかと楽しみにしているんです。それぞれの役が呼応し合っている群像劇なので、自分が自覚している以上のものが、会話の中で自然と引き出されることがあるんじゃないかと。そこを、ご覧になる方にも楽しみにしていただけたらと思っています。

◎Interview&Text/藤本真由(舞台評論家)
◎Photo/安田慎一



二兎社公演43
「私たちは何も知らない」


〈名古屋公演〉2/1 SATURDAY
チケット発売中
■開演/12:00 、17:00
■会場/ウインクあいち 大ホール
■料金(税込)/全席指定¥7,500
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-588-4477(平日10:00~17:00)

〈三重公演〉1/10 FRIDAY
チケット発売中
■開演/19:00 ■会場/三重県文化会館 中ホール
■料金(税込)/全席指定 S¥4,500 A¥3,500
■お問合せ/三重県文化会館 チケットカウンター TEL.059-233-1122

〈豊橋公演〉1/13 MONDAY・HOLIDAY
チケット発売中
■開演/13:00 ■会場/穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
■料金(税込)/全席指定 S¥5,500 A¥4,500 B¥3,000
U24(B席)¥1,500 高校生以下(B席)¥1,000
■お問合せ/プラットチケットセンターTEL.0532-39-3090(休館日を除く10:00〜19:00)