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「アニエス・ルテステュ」スペシャルインタビュー
取材日:2019.07.29

パリ・オペラ座の最高位であるエトワールとして
16年間君臨したアニエス・ルテステュ。
オペラ座での最後の2年間は、ドキュメンタリー映画にもなりました。
そして自ら衣装デザインを手掛けるという多才なダンサーでもあります。
今回の公演「変貌する美」は一台のグランドピアノを舞台の中央に、
ダンスと音楽の有機的な融合を目指すという
アニエスの意欲が注ぎ込まれた必見の作品です。
もちろん衣装は彼女自身が手掛けています。
今回は舞台を作り上げる様々な要素のあり方についてを中心に、
アニエスに語って頂きました。

パリ・オペラ座のエトワールでありながら、アニエスさんは衣装デザインもされますね?

私がバレエを始めたのは、あの衣装を着たかったからなんです。8歳のときにマーゴ・フォンテーヌという有名なバレリーナを観て、その絵を描いて「これと同じ服を着て自分も踊りたい」と言ってみたりもしました。きれいな衣装を着て踊りたいというのがずっと小さい頃からの私の夢だったのです。だからコスチュームは私の中の歴史でもあるの。バレエの勉強を始めて、最初はコール・ド・バレエ(群舞)のメンバーですから、衣装は自分が着たい衣装ではなかったので失望して、早く衣装を着て踊れるようになりたいと思っていたわけです。衣装のデザインはオペラ座に在籍していた時から手掛けていました。2000年にオペラ座以外で踊る機会があって、そこで自分のコスチュームをデザインしたのが初めです。今回の公演でも振付を手掛けている、同僚のジョゼ・マルティネスに依頼されたんです。そこで初めて自分でデザインした衣装を着て。プラスティック素材を使ったチュチュでした。

どうしてプラスチックを使ったんですか。

プラスチックって偽物という意味もあるんです。今回の公演タイトルもそうですが、言葉のダブルミーニングや物に意味を持たせることは好きです。ジョゼはオーソドックスな衣装を求めていましたが、私は変わったものをどんどん提案していって。でも、衣装によって彼の振り付けもすごくコミカルなものになったりして、衣装はただのデコレーションではなくて、演出に影響する要素を十分持っていると思います。


この公演のタイトルである「変貌する美Ledo(s)transfiguré」には、どのような思いが込められているのでしょうか?

「Ledo(s)transfiguré」というタイトルの「transfiguré」というのが「変貌」という意味です。そして「do(s)」というのは2つの意味を伴っています、ひとつはドレミファの「ド」と、フランス語で背中を表す「ド」。背中というよりも後ろの体幹を意味します。プログラムにB.ガルッピのソナタがあります。この曲は企画全体が生まれるきっかけになったんですが、これがハ短調の曲。この曲を中心にハ調の曲を並べてみました。ハ調はドレミファの「ド」に当たります。このハ調である「ド」を中心にして作曲家のいろんな素顔をダンスで表現して、その変貌を感じてもらいたいのです。そしてダンスの要となる体幹「do」も意味することによって、そのことをより強調できればと思っています。


プログラムの構成ではどのようなことに気をつけられましたか?

無秩序に寄せ集められたようなガラ・プログラムにはしたくなかったんです。だから、プログラムに1つの流れというのを作りたかった。その中心になるのがハ調(ド)を中心にしたプログラムの関連性。あとピアノの演奏についても、いわゆるダンスの伴奏という存在に留まらせず、ピアノの演奏とダンスが融合しているような表現を味わってもらいます。だからピアノはステージのほぼ中心にレイアウトしています。だから私がピアノの周りを踊るようなシーンもあります。

もちろんこの公演の衣装もアニエスさんがデザインされたんですよね?

そうです。でもまずはプログラムのコンセプトや構成を考えて、その流れの中でどのような衣装がいいかを考えました。プログラムの全体を考えるわけですから、もちろんピアニストの衣装も私がデザインします。今回は私の衣装も目まぐるしく変わります。その間はピアノのソロ演奏が入りますが、そのピアノソロも振付の一部であるように私は考えています。


全体のコンセプトがあっての衣装ということですね?ピアノ演奏も振付の一部、つまりダンスと同じ流れの中にあるということですね。

どこで踊るか、そしてピアノをどのように踊りの一部のように感じさせるか。90分近いプログラムなんですけど、ずっと通しで1つの流れを感じながら観て頂きたいのです。だからピアノもピアニストのエドナも私も、いわば一つの舞台装置。エドナとピアノはずっと動かずにそのままいるという。あと、ピアノがまるで恋人や家族のように私が親しげに近寄っていくというような動きや、それからあえて離れていって空間的な広がりを持たせたり、時間的に遠ざかっていくような、そんな私的な振付もあります。ですから今回、ピアノは音楽としてだけでなく小道具としても大切な存在になります。音楽としての役割だと例えば、冒頭に白の衣装で華々しく私が登場して、ピアノのソロ演奏を挟んで、次は真っ黒の衣装で登場する。本当に無声映画みたいな動きで出てきてというような演出もあります。1つの音楽で流れを作ったり、全く異なった空気に変えてみたりと効果的な役割を果たしています。


演出、振付、音楽、それぞれが意味を持って繋がっているのですね。

音楽とダンスというものをどういうふうに有機的に融合させていくか。それが単なる寄せ集めではなくロジカルにそれぞれが紡ぎ合って、そこから自然に動きのスタイルといったものが生まれてくるような、そういうものとして振付を捉えています。それがこのプロジェクトの説得力を生み出すのです。私はこれをレボリューション(革命)だと思っています。革命って簡単にいうと何かが変わること。それが今回の「transfiguré(変貌)」というタイトルにも繋がっていきます。

サラマンカホールでの公演が楽しみです。ダンサーとしてだけでなく多様な活躍をされていますが、今後のご自身の活動のあり方にどんな展望を持っていらっしゃいますか?

まず踊り手としての自分。デザイナーとしての自分。あと、オペラ座を始め、上海、北京、ローマ、ウィーンなどのダンサーのコーチ。この3つです。この後すぐジョゼ・マルティネスとダンサーの養成プロジェクトがあったり、ナポリのオペラのために衣装デザイン手掛けたり。オペラ座バレエ団を引退してからの方が、めまぐるしく踊り回っている感じです(笑)。私に夏のバカンスはありません。

◎Interview&Text/福村明弘 
◎Photo/多和田詩朗



10/6 SUNDAY
パリ・オペラ座
伝説のエトワールアニエス・ルテステュ
〜変貌する美〜

チケット発売中
■会場/サラマンカホール
■開演/15:00
■料金(税込)/S¥6,000 A¥4,000 ※学生半額(30歳まで)
■お問合わせ/サラマンカホール チケットセンター TEL.058-277-1110
※未就学児入場不可