歌舞伎「鳴神」の原典とされる風流能、子方（子役）が活躍する演目です。仙人が岩屋に閉じ込めた龍神を解放するため、絶世の美女を遣わし誘惑。仙人と美女による相舞や、子方が演じる龍神が登場するダイナミックな最終盤に注目です。

Ⓒ辻井清一郎

【物語】天竺波羅奈国の辺境に、仙人が住んでいました。鹿から生まれ、額にツノが一本生えているため一角仙人と呼ばれた彼は、龍神たちと争った末、岩屋に閉じ込めてしまいます。以来、その地には雨が降りません。困った国王は龍神たちを解放するため、国中で一番の美女・旋陀夫人を仙人のもとに遣わします。仙人がいる山に分け入った夫人の一行。不思議な庵を見つけると、そこには一角仙人の姿が。道に迷ったふりをして、一夜の宿を望む夫人たち。一度は断わる仙人ですが、夫人の美貌に見とれ、勧められるまま禁断の酒を口にします。夫人の誘惑につられ舞ううちに、酔いが回って寝入ってしまう仙人。やがて岩屋の内が震動し、封印されていた龍神たち（子方）が姿を現しました。目を覚まし慌てる仙人。再び龍神たちを封じ込めようと立ち向かいますが、戒めを破り神通力をなくした彼は、力尽きてしまうのでした。