HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.32 「楊貴妃」

ドラマチック!OH!能

この作品は、白楽天(白居易)の『長恨歌』の物語を能に仕立てたものになります。『長恨歌』は玄宗皇帝と楊貴妃との愛、そして安史の乱によるその破滅を描いた作品。一般的に能では、幽霊が仮の姿や在りし日の姿で現世に現れるという曲が多い中で、蓬莱国(死後の国)に魂を訪ねて行くというところが特徴です。大切な人が亡くなってしまうと残された人は、魂がどこかに存在し続けていると願っているものです。この曲にはそのような心情がこめられた趣き深い曲です。


【物語】安禄山の乱(755年)の時に殺された楊貴妃のことが忘れられない唐の玄宗皇帝は、神仙の術を会得した方士に命じて、楊貴妃の魂魄のありかを尋ねさせます。方士は天上から黄泉まで探しますが見当たらず、最期に常世(とこよ)の国の蓬莱宮(ほうらいきゅう)へとやってきます。太真殿という御殿のうちを窺っていると、中から昔を偲ぶ詠嘆の声が聞えてきます。方士が唐の天子の使いと名乗ると、簾を押し上げ姿を見せます。方士が使いの趣を述べると、皇帝との昔を懐かしみ憂いに沈みます。方士は楊貴妃と会った証に形見の品を彼女に所望すると、玉かんざしを差し出します。方士はかんざしのような珍しくもないものではなく、皇帝と交わされたお言葉があれば聞かせて欲しいと望みます。すると楊貴妃は、「天にあらば比翼の鳥、地にあらば連理の枝」と、その愛の永遠を誓ったことを打ち明けます。そして、その誓いも空しく、私ばかりが遠くへ来てしまったが、できれば未来でお目にかかりたいと伝えてほしいといいます。さらに自分はもとは上界の仙女であった身の上について語り、舞を舞って見せ、形見の品を持って帰る方士を一人寂しく見送ります。