HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.16「善知鳥」

ドラマチック!OH!能

生きることにまつわる哀しさを描き出した、凄惨な曲。曲名の善知鳥は鳥の名前。親鳥が「うとう」と鳴き、子鳥が「やすかた」と鳴くように聞こえるといわれている。生きるために生き物の命を奪い去らねばならない人間の悲哀を、研ぎ澄まされた動きと重厚な謡で表現します。最後のシーン、地獄の描写に注目。


「善知鳥」(大槻文蔵)

【物語】諸国を巡る僧が、陸奥国(今の青森県)外の浜(外ヶ浜ともいう)へ行く途中、越中国(今の富山県)立山に立ち寄ります。そこに一人の老人が現れ、僧に頼みごとをしました。その老人は実は、昨年亡くなった外の浜の猟師の亡霊でした。頼みごととは、外の浜に着いたら、自分の妻と子の家へ行き、簑笠を手向けて自分を弔って欲しいというものでした。突然の依頼に驚いた僧は、いいかげんなことはできないと返答します。すると老人は、これを証拠にといい、着ていた着物の片袖をほどいて渡し、消えていきました。僧は外の浜に着き、猟師の妻子の家を訪ねます。不思議にも、その家にあった猟師の着物には片袖がなく、僧の持参した袖がぴったりと合いました。簑笠を手向け、僧が猟師を弔っていると、猟師の亡霊が現れます。亡霊は生前、善知鳥をはじめ、鳥獣を捕獲し、殺し続けた罪により、苦しんでいることを明らかにします。そして、地獄で化鳥に変じた善知鳥から、責め苦を与えられる様子を見せ、僧に助けてくれと訴えて、消え失せていきました。