HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.5「鉢木」

ドラマチック!OH!能

「人情物」として知られる演目。武士の忠誠心とともに、質素でありながら精一杯客人をもてなす心意気も清々しい物語。舞台は群馬県高崎市上佐野町、そして鎌倉です。


シテ:梅若万三郎 ⓒ前島写真店

【物語】上野国佐野に住む貧しい武士、佐野源左衛門常世(つねよ)の家に、ある雪の夜、旅僧が一夜の宿を貸して欲しいと言います。常世は見苦しい我が家に泊めるのが心苦しく、一旦は断りますが、大雪の中を立ち去る旅僧を気の毒に思い呼び戻します。常世は旅僧に粟飯をすすめ、粟で命をつないでいるわが身を嘆くのでした。夜も更けてくると寒さが増し、薪にも事欠く常世は、秘蔵の鉢の木である梅、松、桜を切り、火をくべて旅僧をもてなします。旅僧が常世の身の上を尋ねると、常世は一族の横領により今の通り落ちぶれてしまったことを話しました。旅僧がなぜ鎌倉幕府に訴えないのかと尋ねると、最明寺殿(前執権・北条時頼、実は目の前にいる旅僧)が修行に出られているから仕方がないと言いながら、落ちぶれてはいても鎌倉に大事があれば一番に馳せ参じる覚悟だと語ります。その後、鎌倉に軍勢の召集がかかり、常世も痩せ馬に跨り駆けつけました。時頼は常世に、大雪の晩に宿を借りた僧が自分だと明かします。そして、その忠誠心を称えて、秘蔵の梅、松、桜の鉢の木で暖をとらせたもてなしの返礼に加賀の梅田、上野の松枝、越中の桜井の領土を常世に与えたのでした。
現在もてはやされているホスピタリティ(もてなし)の精神、そして衰退しつつあるロイヤリティ(忠誠心)の精神を映し出した傑作です。また、「いざ鎌倉」は「すわ鎌倉」とも言います。江戸時代の謎架けに「醤油は野田、では酢は?」と言う物があり、答は「すわ鎌倉」と言うものです。よろしければどうぞ。