HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第七十七回「ポジションが人をつくる」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

ポジションが人をつくる

人にはそれぞれ得意とする役割があります。集団の大小に関わらず、自分でも無意識に求められるポジションに収まる事で、集団全体のバランスもとれているのかも知れません。
たとえば戦隊ヒーローもの。リーダー格、血気盛んなイケメン、紅一点の女性、頼りになる武闘派という具合に、キャラの振り分けがされています。このスタイルの原型が「弁天娘女男白浪」。白浪とは盗賊の事で、白浪五人男の別名でも知られます。ヒーローものがたいてい五人なのは、本作の影響が大であり、五人の盗賊チームの花形・弁天小僧のゆすりかたりの場面が有名です。
しとやかな武家娘に化けて悪事を働く弁天小僧は、美形の不良少年。江ノ島の稚児出身で、かつてはゲイの男と組んで美人局を繰り返していたツワモノです。弁天のサポート役が、家来に化けた南郷力丸というガテン系の荒くれ男。この二人が呉服商をゆするのを止めた侍の正体は、一味のリーダー・日本駄右衛門です。
三人でひと芝居打って呉服商を信用させ、大金を巻き上げる計画を練ったのが駄右衛門。その先兵を担うのが、命知らずの弁天小僧。他のメンバーは、武家小姓上がりの赤星十三郎と、彼の家来筋で剣の達人・忠信利平。柔和な色気を漂わす十三郎は紅一点、落ち着いたムードの利平はクールな無頼派といった役どころです。
以前は単独で悪事を働いていた彼らが、盗賊ながらもチーム内で適材適所のポジションを得て、さらなる大仕事をする様子は、何やら社会の縮図のようです。