HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第七十一回「出しゃばりも使いよう」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

出しゃばりも使いよう

出しゃばりも機転と気合で有効に?その良い例が「源太勘当」。イケメンで優秀な兄と、意地の悪い弟の間で揺れ動く人々を描く、武将一家のホームドラマです。
若武者・梶原源太は、宇治川の合戦の先陣争いで、佐々木高綱に遅れをとります。怒った父・景時は源太を館へ帰し、切腹させようとしています。仮病で館にこもっていた弟・平次は父の書状を盗み読み、合戦の様子を知ります。
平次の仮病は、源太と恋仲の腰元・千鳥に言い寄るためでした。源太が帰館すると一同の前で、待ってましたとばかりに戦の成果をたずねる平次。義太夫の伴奏に乗って語り出す源太をさえぎって、自ら兄の失態を話ろうとします。
「佐々木は聞こゆる剛の者、兄貴は知られたぬるま者、ついには佐々木に乗り負けて〜」と、源太を貶めるくだりを聞いた千鳥は「黙って聞いていやしゃんせ」と素早く制し、なおも続けようとする平次に「負けることがあろうか、私の推量では〜」と、源太が川を見事に渡る様子を、見て来たように語ります。むろんフィクションで、腰元の立場では出過ぎた行動ですが、恋人をかばいたい一心できかせた機転は、頼もしくも健気です。
実は父・景時は、合戦前の過失で主君・源頼朝を怒らせてしまいましたが、それを高綱が取りなしたのでした。源太はその恩義から高綱に先陣をゆずったのです。そんな事情を知った兄弟の母は、源太と一緒に千鳥を落ち延びさせます。千鳥の心根を信頼した故の配慮であり、出しゃばりもやり方と状況次第で結果オーライです。