HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第六十五回「胆力の見せどころ」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

胆力の見せどころ

相手を立てながら主導権を握るー。こんな高等戦術が使えるのは、文字通り「肝の座り方」がキモ。目標が大きければ大きいほど、剛胆さが試されます。
「四千両」は幕府の金庫・御金藏破りの実録芝居。二人組の犯人による、いわば幕末の三億円事件です。明治になってからの作ですが、江戸期の牢獄内の様子もリアルに描いて大ヒットしました。
面白いのは二人組のキャラの違い。前科者で屋台のおでん屋を営む富蔵は、旧主の侍・藤十郎に偶然出会います。痴情のもつれで百両の強盗殺人を企てる藤十郎に「殺人などおよしなされませ」と意見します。「武家がいったん言いだしたら〜」と、後先考えない藤十郎に、自分の犯罪歴を語り聞かせる富蔵。 金に困っていた藤十郎は「まずは小さな悪事から教えてくれ」と頼みますが、富蔵は「はした金ではなく、もっと大きな事をやれば良い」と、四千両の御金藏破り計画を打ち明けます。
驚く藤十郎でしたが、富藏の周到な計画を聞き、仲間になる事に。威勢が良いのは口先ばかりで小心者の藤十郎を、富蔵が終始リードしていく様子が見ものです。
まんまと盗み出した四千両を、藤十郎の屋敷に運び込んだ二人。すぐに山分けしようとする藤十郎に、ほとぼりがさめるまで床下に埋めておき、今まで通りの生活を続けるよう冷静に諭す富蔵。悪事がばれるのを恐れた藤十郎に斬られかけると「たとえ捕まっても相棒の名は明かさない」と言い、詫びられると「謝るならこれ切りに。後でぐずぐず言いやしねえ」とキッパリ。結局最後は捕まる二人ですが、あっぱれな肝の座りよう。悪事ではなく
ここ一番のプロジェクトの遂行には、こんな人物と組みたいものです。