HOME > MEGLOG【編集日記】 > <会見レポート!>映画「シュシュシュの娘」入江悠監督

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『22年目の告白~私が殺人犯です~』『AI崩壊』など、近年はメジャー映画で知られる入江悠監督による自主制作映画『シュシュシュの娘』。『SRサイタマノラッパー』シリーズ以来10年ぶりとなる自主映画だ。2020年、「コロナ禍で苦境に追い込まれた全国のミニシアターを応援したい」との思いで、クラウドファンディングと自己資金で制作を開始。「全国のミニシアターで一斉公開」という、過去に例を見ない形での上映に漕ぎ着けた。差別や移民などシリアスな題材の中にもユーモアを盛り込んだ本作。公開を控えた入江悠監督のインタビュー会見をレポート!



―今回は女性が主人公。どのように生まれたキャラクターですか?
コロナ禍で先が見えず、どうなるんだろうと2020年を過ごしました。過去に映画を上映してもらったミニシアターも苦しんでいる。一緒に映画の興行をやっていきたいと思ったんです。
女性を主人公にしようと最初に決めました。男を主人公にすると、どんどん暗い話になっていくんですよね(笑)。女性の方がポップさを出せるんじゃないかと。「ミニシアターに行ったことない」という人も気軽に来てほしいとの思いで、ちょっとユルい女性キャラクターにしました。

―脚本が生まれた経緯は?
コロナ禍で仕事の予定が2つくらいなくなり、カッとなって書きました(笑)。ずっと家にいたので、集中して書いた感じです。ただ、この映画で描かれているような外国人差別の問題などは自分の中にずっとあるテーマでした。『ビジランテ』でも描きましたが、深めていきたい気持ちはずっとありました。2020年、「不要不急」という言葉がありましたが、僕にとって映画館で映画を見ることは、かなり「要」です。救われたり、笑ったり泣いたり、普段の生活から解放され身軽になれること。そういう意味で少し笑えるものをやりたいと思いました。せめて88分を気持ちよく痛快に。目標はそれくらいでいいのかなと思ったんです。暗くて重い映画も好きでミニシアターへ見に行きますが、笑い飛ばすことも映画のひとつの力。僕の好きな岡本喜八監督の『独立愚連隊』も、苦しい中で皆やけに明るくて笑っている映画です。

―久しぶりの自主映画ですね。
役者もSNSで募集しました。2500人以上来てメールサーバーがパンクした(笑)。当時まだ対面も厳しかったので、一次選考後リモート面接、その後対面オーディションをしました。主演の福田沙紀さんは芝居もダンスも面白かった。ダンスが映画に出てきますが、振り付けも自分で考えてもらっています。ダンスはすごく人柄が出やすい。本人が生きてきた足跡を記録する感じが面白かったです。


―撮影には学生スタッフも多く参加したそうですね。
学生たちも学校が休校になり、上京して一人暮らししている子たちが友達も作れず孤立していました。「やる気のある人は、来れる日は現場に来なさい」と話し、本気で映像業界を目指す人は全て休業して来ていましたね。学生には演出部や美術部、制作部などでプロと同じ仕事をしてもらいました。自主映画だからこそできることで面白かったです。商業映画とは違うペースでゆったりやりました。コロナの影響も不明で、とりあえずいっぱい寝て食べる時間を作ろうと。

―商業映画と自主映画、心持ちは違いましたか?
心持ちは同じですが、やっぱり自主映画は大変だなと。プロなら分業することを自主映画は自分でやらなくてはいけない。10年ぶりで大変でしたね。自主映画は人間力を問われるんです。撮影地を借りるのも自分で交渉する。人間対人間で信頼してもらう必要がある。しかも今はコロナでリスクが多い。「本当に映画を作りたいんだな、何か面白そう」と思ってもらうしかないんですよ。一つずつ交渉していくところに、自主ならではを感じました。

ー撮影はご出身の埼玉県深谷市ですね。
愛知の春日井市に似てると思います。郊外で起伏がなくフラットな感じ。日本全国へ行きましたが、春日井が一番近いと思いました。


入江悠監督:名古屋シネマスコーレにて

ーミニシアターで全国上映が決まるまでの経緯は?
上映のことは作品が完成するまで、基本的には決まっていませんでした。完成後に「いかがですか」と声をかけ、手を挙げていただいたところが現在上映が決まっている映画館です。

ーミニシアターにはどんな思いがあるのでしょう?
人生を救われたところがありますね。大学受験に失敗して引きこもりみたいな生活をしていた時期に、唯一行っていたのがミニシアター。そこへ行くことで、かろうじて社会の一員という感じでした。もちろんシネコンも映画を見る環境として素晴らしいですが、ミニシアターは一人で孤独を抱えていくような場所。そういう場所はだんだん減っている気がします。ミニシアターは独りぼっちを受け入れてくれる場所。

ー名古屋シネマスコーレは、入江監督にとってどんな映画館ですか?
『SRサイタマノラッパー』を一番多く上映してくれ、一番アツかった映画館です。スタッフの熱量が直接伝わってくる。メジャー映画はお互いの対話や熱が伝わり合うことが少ないですが、シネマスコーレの熱量は映画館の人と一緒に作り、お客さんに見てもらっている感じでした。

ー自主映画制作は、今後も続けたいですか?
はい。「そろそろやらなきゃ」という気持ちは、この数年むくむくと湧いてきていました。メジャー映画をやっていますが、担がれた神輿みたいな部分があり、細分化したスタッフに支えられて監督が成り立つ。誰もいなくなった時に一人で映画を作れるか、人間力が衰えてきているかもという不安がありました。やってみたら毎年作りたいくらい楽しかったです。やっぱり自主映画は自由。一人の人間に戻った気がしますね。

◎Interview&Text/山口雅

8/11 WED 19:00~
先行上映(全国一斉プレミアム試写会・チケット代は各上映ミニシアターへ全額寄付)
8/21 SAT~
[名古屋・シネマスコーレ、大阪・第七藝術劇場他、全国ミニシアターでロードショー]
映画「シュシュシュの娘」
■製作・脚本・監督・編集/入江悠
■出演/福田沙紀 吉岡睦雄 根谷涼香 宇野祥平 井浦新 他
■制作プロダクション・配給/コギトワークス