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恒例のフェニーチェ堺での独演会 今年は名作古典落語“芝浜”を披露

今年5回目となるフェニーチェ堺「鳳凰亭」での桂かい枝独演会。今回は江戸古典落語の不朽の名作といわれる「芝浜」を披露。

今回で5回目となる独演会ですが、上方落語では珍しい「芝浜」を演じられるのが楽しみですが、選ばれた理由を教えてください。

江戸落語の名作古典で、過去の伝説的な師匠方も演じておられる大ネタですが、題名が「芝浜」で、字のごとく、東京の芝の海辺が舞台になっています。なのであまり関西で演じる落語家さんが少ないんじゃないですかね。でも内容はとても良くできていて、夫婦がお互いを思い合うということはどういう事なのか?LOVE以上の何かを物語っているようで、じんわり夫婦愛というものを味わっていただける噺です。

芝浜は江戸の落語だから関西(上方)では演じにくいということだったんですか?

上方では「芝浜」をアレンジした「夢の皮財布」という噺がよく演じられていますが、そのまま「芝浜」を演じる上方落語家さんもいるんです。今回演じさせていただくのは笑福亭鶴瓶師匠のバージョンを私なりにアレンジしたものになります。教えていただいた型に自作のギャグや演出をくわえたオリジナリティ溢れる「シン芝浜」ともいうべきネタになっています。

独演会では挑戦的な演目を選ばれたということなんですよね?

そんなに深刻ではなくて、関西ではなかなか演じられない「芝浜」を、関西の人にも笑って泣いていただける工夫をして、ぜひ楽しんでもらいたいと選びました。なかなか聴く機会も少ないのでぜひ独演会にいらしてください

フェニーチェ堺での落語オンリーの独演会は、かい枝さんにとってどんな存在ですか?

私たちのホームである天満天神繁昌亭や神戸新開地喜楽館とは違って、日ごろオペラやクラシック音楽を楽しんでおられるお客様の多い会場ですから、やはり違った緊張感があります。いわゆる目の肥えたお客様が多いという印象です。それだけに新たなお客様も多いわけで、気合を入れて臨まないと、と毎年思っています。

芸歴33周年を迎えられて、今後の抱負などをお聞かせください。

今は寄席はもちろんですが、「なんばグランド花月」や、東京の「ルミネザよしもと」にも定期的に出演の機会が増えてきました。落語ファン以外のお笑い好きの方々に、もっと落語の面白さを知ってほしいという願いです。そういう意味では落語会以外のテレビやラジオで一世を風靡された桂文珍さんのようなマルチな活動を続けていきたいです。入門の時に文珍師匠のような落語家になりたくて、その師匠である五代目桂文枝に入門しましたから。英語落語や、やさしい日本語落語などにも力を入れていきたいと思っています。

最後にフェニーチェ堺での独演会に期待するファンの皆さんにひと言お願いします。

フェニーチェ堺での独演会も5回目を迎えられるのは、堺のお客様の応援あってのことと感謝しています。今回は江戸落語の大ネタ「芝浜」に挑戦します。他二席と共に、また新たな桂かい枝を楽しんでいただける内容にしたいと思っています。ぜひお越しください。笑って、そして泣かせます。

取材・文 石原 卓




10/25 SUNDAY
桂かい枝独演会

チケット発売中
◎出演/桂かい枝 ほか
◎会場/フェニーチェ堺小ホール
◎開演/14:00
◎料金/3,500円
◎お問合せ/堺市文化振興財団チケットセンター
0570-08-0089(10:00-18:00)



開館25周年、岡崎市制施行110周年 響き新たに、岡崎から始まる音の祝祭「岡崎“天下一”室内楽音楽祭」

リニューアルオープンを迎える岡崎市シビックセンター コンサートホール「コロネット」を主会場に、「岡崎“天下一”室内楽音楽祭」が開催される。同センターのレジデントアンサンブル「アンサンブル天下統一」のメンバーであり本音楽祭の音楽監督を務めるチェリスト・中木健二さんに、開催の経緯やプログラムに込めた想いをうかがった。

今回の音楽祭の中心となる「アンサンブル天下統一」は、どのような経緯で結成されたのでしょうか?

私は岡崎市の出身なんです。大学進学を機に上京した後、岡崎に天井が高く音響の素晴らしいホールができたことを知り、ずっと気になっていました。その後、フランスに留学したこともあり演奏する機会が得られなかったのですが、帰国を考えていた頃に当時の館長さんから「弦楽をメインとしたアンサンブルのレジデントをもちたい」というご相談をいただいたのです。弦楽三重奏を基本にすれば、ヴァイオリニストをゲストに迎えて弦楽四重奏を演奏したり、ピアニストを迎えてピアノ四重奏を演奏したりと、編成を柔軟に変えながらさまざまな室内楽に取り組むことができます。そうした発想から、アンサンブル天下統一が誕生しました。2013年のことです。

インパクトのあるネーミングですね。

岡崎生まれの天下人・徳川家康公にあやかって名付け、「岡崎発信で音楽の素晴らしさを天下に伝える」をモットーに活動しています。第一線で活躍するアーティストをゲストに招いた室内楽の定期公演を主体に、年末恒例の「ゴルトベルク変奏曲」などを行い、音楽好きの皆さんと充実した時間を重ねてきました。また、毎年夏に開講している若い奏者を育成する「アンサンブル・アカデミー」は、今年で6回目を迎えます。こうした活動を評価していただき、昨年度、「愛知県芸術文化選奨文化賞」を受賞することができました。

そして、今年は「岡崎“天下一”室内楽音楽祭」が開催されます。

岡崎市シビックセンターが約1年8か月という長い休館期間を経て、9月にリニューアルオープンします。また、今年は開館25周年という節目の年でもあり、さらには岡崎市制110周年も重なります。「それならば、このタイミングで思い切って音楽祭を開催し、皆で喜びを分かち合おう」ということになったのです。



どの公演も、充実したプログラムが演奏されますね。

「アンサンブル天下統一」として挑戦してみたいことはもちろんですが、せっかくなら岡崎にゆかりのあるアーティストやアンサンブル・アカデミー修了者と一緒につくり上げ、皆で岡崎を盛り上げたいという想いがあります。そのため、音楽祭のオープニングコンサートではそうした方々と共演し、皆でひとつのコンサートを創り上げます。また、音楽祭というからにはより幅広い年齢層の方々に楽しんでいただきたいと思いますので、お子さんと一緒にご家族でお聴きいただけるファミリーコンサートも用意しています。

アンサンブル天下統一のメンバー3人それぞれのソロを楽しめるコンサートも!

以前、長原さんと鈴木さんの無伴奏を、それぞれのコンサートで聴く機会があったのですが本当に素晴らしくて、「ぜひ岡崎の皆さんにも聴いていただきたい」と思ったんです。そこでこの音楽祭では3人それぞれのソロをお楽しみいただけるプログラムを企画しました。バロックから近現代までの作品を組み合わせた少し大人向けのプログラムですが、予備知識がなくても楽しんでいただける作品ばかりです。多彩な作品に触れたい方はもちろん、私たち3人それぞれのソロ演奏を聴いてみたいと思われている方、そしてリニューアルしたホールの響きを楽しみにされている方にも、ぜひ聴いていただきたいプログラムです。

クロージングは、アンサンブル天下統一の演奏でベートーヴェンの弦楽三重奏曲作品9-1から9-3の3作品が取り上げられるのですね。

実は以前、この作品をリニューアル前のこのホールで録音しているんです。でも、まだお客様に3作品をまとめてライヴで聴いていただいたことがなく、クロージングはこのプログラムでと決めていました。この3作品は、それぞれ調性も音楽的なキャラクターも異なりますが、ベートーヴェンはひとつのまとまりとして出版することを想定し、作曲されたと言われています。ですから、3作品を通して聴いていただくことで、ひとつの大きな流れを感じていただけるのではないかと思います。このホールでぜひ演奏したいと思っていたプログラムですので、私たちも今から楽しみにしています。リニューアルしたホールでさまざまなタイプの室内楽を存分に味わっていただきたいと思います。

◎Interview & Text /向後由美



9/3THURSDAY〜9/6SUNDAY
岡崎シビックセンターリニューアルオープン&開館25周年、
岡崎市制110周年記念
岡崎“天下一”室内楽音楽祭


*詳細は以下のリンクからご確認ください
https://www.civic.okazaki.aichi.jp/news/tenkaichi/#gsc.tab=0



この夏、注目の演劇ユニット「果てとチーク」が三重に初登場!!

この夏、「果てとチーク」が三重に初登場。透明化された断絶を軽妙な会話劇でポップに浮かび上がらせる升味加耀の劇作が冴える、注目の演劇ユニットです。「きみはともだち」再演を前に関連作の上映会・トークイベント参加のため三重を訪れた升味に、作家としての思い、作品の見どころを聞きました。

「果てとチーク」は2016年、留学先のベルリンで旗揚げされたそうですね。

大学3年生のときに1年間、交換留学でベルリンにいて、本当に小さなひとり芝居を上演したのが旗揚げになりました。「果てとチーク」という屋号を使ったのは、渡独直前の2015年に大学の演劇サークルで上演した「害悪」という作品が最初です。ベルリンの大学では“演劇学”学科に籍を置いていたのですが、現地の言葉のスピードについていけず、生活面でも言葉に困って引きこもりがちになってしまいました。当時、唯一の行き先は劇場や美術館。学生証があれば無料や格安で入れたので、しょっちゅう出かけていた時期もありました。

そうした環境は、後の創作活動に影響しましたか?

そうですね。日本にいると、自分がアジア人であることを意識する機会は少ないですが、ヨーロッパではそれを痛烈に感じました。言葉がうまく話せないことで大人として対等に扱ってもらえなかったり、差別的な扱いを受けたり。一方で、差別してくる人たち自身もまた、ドイツ社会の中で差別されているという複雑な入れ子構造への気づきもありました。そうした経験は、私がそれまで日本で持っていた「特権」を知るきっかけにもなりましたし、現在進行形で自分が搾取の構造の中にいること、あるいは加担していることを、知識としてではなく痛みとして理解することにつながりました。「こういう痛みを私が表現するなら演劇だよな」と思って、自分の団体を持つことを決意したんです。

今日のトークイベントで「劇作を通じて自身の怒りを自覚した」とおっしゃっていましたが、書くことで何が明確になりましたか?

「自分は怒っている」という漠然とした感覚を分解して、何に対して、なぜ怒っているのか、何が嫌だったのかが明確になりました。マイノリティである人々を構造的に抑圧し、人間扱いしないことに対しての怒りです。人種やジェンダーアイデンティティなど、本人が変えられない部分で差別し、アンフェアな扱いをすること。誰かを「存在しないもの」として扱う社会の目線に対して怒りを感じることが多いですね。


「きみはともだち」東京公演舞台写真(2026) 撮影:上野哲太郎


「果てとチーク」の作品では、そうした社会課題が日常の会話の中から自然と浮かび上がってきますね。

作品テーマを社会課題に絞り込んでいるわけではないんです。ただ、“個人的なことは政治的なこと”だと思っています。日常的な会話、例えばクラスメイトや友人同士のやり取りの中から、「これって、なぜ最近こうなっているんだろう?」という違和感が社会的な問題へとつながっていく。そんな提示ができればと考えています。演劇は、生身の人間が同じ空間と時間を共有する、非常にプリミティブでパワーのある媒体です。映像とは違い、観客は「どこを見るか」「どの言葉を聴くか」を自分で選択することになります。そして、その選択には観客自身の背景が反映されることもある。それも含めて、演劇はコミュニケーションのアートです。観劇中、ちょっと思考が外に向くこともあるじゃないですか。100%ずっと集中していなくても、何か引っかかったセリフについて考える瞬間があっても全然いい。そうやって自分の感覚とか生活につなげてもらえたらいいなと思っています。

この夏、再演する「きみはともだち」は、2023年に初演された「はやくぜんぶおわってしまえ」の後日譚ともいえる作品。前作ではジェンダーや性自認への向き合い方による「断絶」を、今作ではそれを越えて再び「つながろう」とする友人同士の葛藤を描いています。二作の間に、どんな意識の変化があったのでしょうか。

「はやくぜんぶおわってしまえ」の上演後、共感したという感想が多く寄せられたことが気になっていました。共感で連帯できることもありますが、私が本当に描きたかったのは「わかり合えないよね。だけど、どうする?」ということだったからです。そこで「きみはともだち」では、「わかる、わかる」じゃわからない、断絶の先を描こうと考えました。トランスヘイトなどが激化し、自分が自分であることを人に伝えることの怖さを、より感じるようになった時期でもあったので。「対岸にいるあなた」に対して、私たちがこの社会で普通に生きていくためには一緒に考えるしかないんだ、ということを知ってほしいという思いで書いた作品です。

登場人物の変容も印象的です。ノンバイナリーである野澤の理解者だった友人・園は、高校生の頃と異なる一面を見せますね。

高校時代の園は正義感の塊で、抑圧する側に直情的に物申すことができました。しかし、その後の10年で社会に揉まれ、たくさん悔しい思いをしたり、流されたりしてきたと思うんです。自分が生きるのに精一杯で、かつてのようには他者のことを考えられなくなるのは、よく理解できます。そうした変容も、今の社会を生きる実感として描く必要があると考えました。


「きみはともだち」東京公演舞台写真(2026) 撮影:上野哲太郎


7月の三重公演は、「果てとチーク」初の地方での上演です。

普段の上演とは異なる層の方々にリーチできる貴重な機会だと感じています。クィアの人々を「遠くの誰か」ではなく「隣にいるかもしれない存在」として、自分の生活に引き寄せて考えてもらえたら嬉しいです。初演時には「東京だから通じる作品だ」というご感想もありましたが、私はそうではないと思っています。三重の皆さんからどのようなフィードバックをいただけるか、とても楽しみです。

エンターテインメントとしての見どころを教えてください。

シリアスにとらえず、ワンシチュエーションのコメディだと思って気楽に観ていただきたいです。私はずっと、テンポのいいポップで笑える会話劇を作っているつもりなんです。観客に集中し続けてもらうには、エンターテインメントとしての面白さが不可欠ですから。気負わずに劇場に来て、まずは楽しんでいただければ。そして、笑ったり泣いたりしている間にふと何かに気付いたり、劇場の外に出た後も考え続けてもらえるような、そんな体験を届けたいと思っています。

◎Interview & Text /稲葉敦子



7/11 SATURDAY 7/12 SUNDAY
Mゲキセレクション 果てとチーク「きみはともだち」
チケット発売中
◎作・演出/升味加耀
◎出演/川村瑞樹、升味加耀、松森モヘー(中野坂上デーモンズ)、横手慎太郎(シンクロ少女)
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/7月11日(土)14:00(アフタートークあり)、
    7月12日(日)13:00(アフターイベントあり※詳細は公演WEBをご覧ください)
■料金(税込)/整理番号付き自由席 一般 ¥3,500 22歳以下 ¥2,000
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL. 059-233-1122
※未就学児入場不可



マティアス・ヘフス コンサートツアー名古屋公演に向けて- 佐藤友紀に訊く

圧倒的な技巧と卓越した音楽性で現代トランペット界を牽引するマティアス・ヘフスが単独来日。弟子である佐藤友紀、辻本憲一らとともにツアーを行う本公演について、名古屋公演の聴きどころを、佐藤友紀に聞いた。


佐藤友紀(Trp) ©️Masanori Doi

昨年のジャーマン・ブラス50周年記念公演は、19年ぶりの来日ということもあり大きな話題となりました。今回はジャーマン・ブラスの看板プレイヤーであり、現代トランペット界を牽引する名手、マティアス・ヘフスの単独来日。期待が高まりますね。

佐藤:昨年の来日公演の際に、「もっとヘフスの音を聴きたい!」という声を多く耳にしました。そうした熱い要望に答えるべく、単独での来日ツアーが実現することとなり、関係者の間でも期待が高まっています。ヘフス先生はひときわ存在感のある奏者ですから、長年のファンはもちろんのこと、今回初めてその演奏に触れる方にとっても、トランペットの魅力をあらためて実感することのできる貴重な機会となりそうです。


共演者も日本を代表するトッププレイヤーが名を連ねています。今回の編成には、どのような思いが込められているのでしょうか。

佐藤:実は今回のツアーの背景には、ヘフス先生や同門の辻本憲一さんらとともに制作し、2015年にリリースしたアルバム『ファイヤーワークス ― 3本のトランペットとオルガンによる祭典 ―』の存在があります。このときのようにまた、師弟3人で演奏したい、という思いがありました。名古屋公演ではそこに、福川伸陽さん(Hr)、古賀光さん(Trb)、池田幸広さん(Tub)に加わっていただきます。メンバー全員によるアンサンブルにヘフス先生のソロを織り交ぜながら演奏しますので、彼の魅力を存分に味わっていただけるのはもちろん、それぞれの奏者の個性も楽しんでいただける、非常に贅沢なプログラムになると思います。また、ヘフス先生は本拠地ドイツでは、弟子たちとの演奏会を頻繁に行っていますので、今回の公演では、そうしたドイツでの雰囲気もお届けできると良いです。

お弟子さんである佐藤さんから見て、ヘフスさんの魅力はどういうところにあるのでしょうか?

佐藤:紳士的な人柄や、あふれる音楽性、卓越した技術など、もう本当に“すべて”なのですが、私が最初に度肝を抜かれたのは“音”です。トランペットという楽器の難しさをまったく感じさせず、どこまでも自然に音楽が流れていくような演奏をする方なのです。私自身、それまでトランペットでは実現不可能だと思っていたような演奏をごく自然に実現しており、完全に打ちのめされました。私は彼のそういうところに強く惹かれて、師事したのです。


YouTubeなどにも多くの演奏動画が公開されており、エレガントな音色が非常に印象的です。

佐藤:そうなんです。まさに“エレガント”という言葉がぴったりだと思います。もちろん、トランペットならではの華やかさや荘厳な響きも持ち合わせているのですが、ヘフス先生は繊細な表現を徹底的に追求しており、微弱な音にも豊かな表情があります。このスゴさは録音ではなかなか伝わりにくいのですが、非常に幅広いダイナミックレンジを持ち合わせていますので、ホールの客席でぜひ体感してほしいです。おそらく、トランペットという楽器のイメージが覆されると思います。

プログラムの聴きどころは?

佐藤:モーツァルトのピアノ・ソナタやJ・S・バッハのパルティータなど鍵盤楽器のアレンジ作品では、原曲の新たな魅力を発見していただけると思います。また、メインとなるベーメの《金管六重奏曲 Op.30》は、読売日本交響楽団 第694回名曲シリーズ(7/21火 サントリーホール)にて演奏される《トランペット協奏曲 変ホ短調 作品18》と同じ作曲家による作品です。同じ作曲家の室内楽作品で、また違った世界観をお楽しみいただけると思います。ぜひ会場にお越しください。

◎Interview&Text/向後由美



7/14 TUESDAY
マティアス・ヘフス コンサートツアー
チケット発売中
《出演》
マティアス・ヘフス(トランペット)
佐藤 友紀(トランペット)辻本 憲一(トランペット)
福川 伸陽(ホルン)古賀 光(トロンボーン)池田 幸広(テューバ)
◾️会場/しらかわホール
◾️開演/18:45
◾️料金(税込)/全席自由 一般¥5,000 高校生以下¥3,500
◾️お問合せ/クラシック名古屋 TEL.052-678-5310





YouTubeからコンサートホールへ
石井琢磨が描くクラシック音楽の新たな可能性

YouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」で親しまれる一方、クラシックピアニストとしても活躍する石井琢磨さん。コロナ禍を機に始めた発信活動は、いまやクラシックの魅力を届ける大きな武器へとブラッシュアップされています。YouTuberとクラシックピアニスト、ふたつの顔を持つ“ハイブリッドピアニスト”に、その歩みと未来への想いをうかがいました。

YouTubeへ投稿をはじめたきっかけをおうかがいします。

2020年にコロナ禍が始まって、当時決まっていたコンサートは軒並みキャンセルか延期になりました。どうしたものかと考えたときに、このピンチをチャンスに変えたいと思って、一念発起して始めたのがYouTubeです。それまではいわゆる「純クラ」の土壌で勉強していたので、「琢磨がYouTuberになったらしい」と最初はみんなびっくりしていましたね。ですが、続けていくうちに応援してくれるようになりました。


YouTuberとクラシックピアニストの二刀流で活動されていますが、それぞれの活動に違いはございますか?

どうしてもイメージ的に、クラシックピアニストの方がより近寄りがたいのかもしれません。YouTubeは自分の言葉で楽器や作品を解説したり、人となりがわかる動画を投稿することもできるので、親近感が湧きやすいのはYouTuberピアニストだと思います。活動自体に明確な線引きはしていませんが、クラシックは本名の「石井琢磨」、YouTuberピアニストとしては「たくおん」と、一応名義を変えて活動しています。

「イル・ド・フランス国立管弦楽団」との共演についておうかがいします。ソリストのお話が来た時のお気持ちはいかがでしたか?

びっくりしました。指揮者のユージン・ツィガーンさんが昨年のベルリン交響楽団のサントリーホール公演に聴きに来られていて、「ソリストはタクマで」と指名してくださったんです。

完全に指名だったのですね。昨年のベルリン交響楽団との共演もですが、石井琢磨名義の活動が増えてきているイメージです。

そうですね。もともと本名でずっとやっていたので、逆に「たくおん」名義は自分のなかでは新しい活動でした。いまこうして本名での活動が増えてきて、元のところに戻ってきているなと感じています。ただ本名名義でも自分にしかできないことを出していきたいとは思っているので、たとえばYouTubeで今回のグリーグのコンチェルトの良さをツアー前に紹介できたらいいですね。いろんな方法を駆使しつつ、みなさんに楽しんでいただきたいです。

まさに“ハイブリッドピアニスト”ですね。今回演奏されるグリーグのピアノコンチェルトは超が付くほどの有名な作品ですが、これまでにソリストとして演奏されたご経験はありますか。また石井さんはウィーンで勉強されましたが、そこでのご経験はどう活かされてきますか。

実はソリストとして披露するのは初めてで、譜読みからスタートしました。たとえばヨーロッパは湿度が少なかったり、そういった些細な違いでも音の伝わり方も変わってきます。そういう意味で、ヨーロッパでの勉強は根底から感覚を養うことができました。グリーグは北欧・ノルウェーの作曲家なのでぼくがいたウィーンとは少し気候も違いますが、グリーグ自身はドイツのライプツィヒで学んでいますし、この作品もドイツの作曲家であるシューマンのピアノ協奏曲のオマージュでもあります。グリーグはドイツ語の歌曲も書いていますし、演奏していると作品にドイツらしさも感じます。ドイツ語圏での生活はプラスになっていますね。

この作品に対してどんな印象を抱かれていますか。

ぼくがウィーンにいたころ、2015年くらいでしょうか。レイフ・オヴェ・アンスネスが弾いているのを聴いて、それはそれは感動しました。いつか弾きたいと思っていたので、今回のオファーはとてもうれしいです。とにかく冒頭からバーンとかっこいい曲なんです! 作品自体が持っている力が強いので、クラシックになじみのない方でも聴きやすいかと思います。
少し違う観点ですが、この作品はテレビなどで「すごくショックを受けたときのBGM」のような使われ方をしますよね。「クラシック以外の人はこういった印象を持つ作品なんだ」と思ったことを覚えています。

指揮のユージン・ツィガーンさんとはすでにお会いになられましたか?

先日演奏会にうかがいました。アグレッシブで快活な指揮をされる一方で、音作りは繊細。年齢も近いのでコミュニケーションも取りやすくて、それもまた楽しみです。

イル・ド・フランス国立管弦楽団についてはどのような印象をお持ちですか。

やっぱりパリの香りがする響きが魅力的ですよね。少しアンニュイな感じもあって。ですが、いまの団員さんたちは比較的若いこともあって、その分エネルギッシュさも感じられます。パリのエスプリ感と混ざり合ってとても新鮮で、その塩梅がいいですよね。


ところで石井さんは名古屋にお住まいだった時期があるそうですね。

小学校に上がる前から中学2年生まで、10年近く住んでいました。ピアノもがっつり取り組みましたし、サッカーも一生懸命やっていたので、名古屋は「青春時代を過ごした場所」という思い出です。

とてもご多忙だと思いますが、最近のブームはございますか?

CHASSEUR(シャスール)の鋳物の重たい、いいお鍋をもらったんです。これがすごく良くて、煮込み料理で大活躍しています。ピアニストって自宅にいて練習していることが多いので、煮込み料理とピアニストは相性がいいんですよ。2~3時間練習しながらときどき様子を見に行って、「いい感じ……」とニヤニヤしながらまた練習に戻ります(笑)。このあいだは牛ほほ肉の赤ワイン煮を作りましたが、鍋が違うとやっぱり格別においしかったです。というわけで、最近は煮込み料理にはまっています。

本当にお忙しそうですが、練習時間は確保できますか?

ピアノが持ち運べたらいいのにといつも思っています。スイッチを押してバーッて展開するピアノがあったらなぁ(笑)。持ち運べる楽器の方がうらやましい。ただ、限られた時間だとぐっと集中力も上がって、潤沢に時間があった学生時代よりも練習の質は上がりました。もともと速い方でしたが譜読みの速度も上がりましたし、メリットとしてとらえてがんばっています。

中堅と呼べる年齢になってきましたが、将来的にはどういった音楽家を目指していますか。

クラシックにはすばらしい作品が何千、何万曲とありますが、いきなりあれこれ紹介しても誰も聴いてくれませんよね。「たくおん」の活動で間口を広げて、いわゆる自分みたいなクラオタしか聴かないような作品も紹介し、それに少しでも「いいな」と興味を持ってもらえたらうれしい。そういうピアニストになりたいですね。
いまの活動は大きく分けて3つの軸があります。いわゆる石井琢磨名義のソロ、YouTuberピアニストのたくおん、そしてプロデュース活動です。「PIANO CLOVER」という4台ピアノを8人16手で奏でる企画を進めていますが、こちらは自分も弾きつつプロデュース活動をしています。ありがたいことに多忙な生活を送っていますが、1回しかない人生なので、たくさんのことに挑戦していきたいです。

◎Interview & Text /浅井彩



7/14 TUESDAY
CHASSEUR Presents
イル・ド・フランス国立管弦楽団

指揮 : ユージン・ツィガーン
ピアノ : 石井琢磨

チケット発売中
◾️会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
◾️開演/18:45
◾️料金(税込)/SS¥17,000 S¥15,000 A¥12,000 B¥9,000 U25¥2,000
◾️お問合せ/中京テレビクリエイション
TEL:052-588-4477 (平日11:00~17:00/土・日・祝日 休業)



僕は役者で、舞台で見せているのは間違いなく演劇。芝居好きこそ楽しめる長編新作「ピストルと少年」。

セリフを一切使わず、体の動きや表情だけでドラマを描き出すパントマイム。その卓越した表現力と演劇作品としての質の高さが世界中で評価される、が〜まるちょばが、待望の長編新作「ピストルと少年」を携えて全国ツアー中です。名古屋公演を前に、作品づくりや演技論から音楽へのこだわりまで、熱量たっぷりに語ってくれました。

ソロになられてから、作品づくりにおいて変化はありましたか?

変わりましたね、表現方法が違ってきますから。ふたりいると、その関係性でドラマを見せることができますが、ひとりでやる場合、対象になるものがお客さんには見えないので。でも、やれることが少なくなるわけではなくて、むしろ選択肢が少ない分、その「無対象」である相手がどういうものなのかを観客に感じてもらうという点で、表現としては逆に広がっていると思いますね。それと、ひとりになってつくづく思うのが、パントマイムは、まだ完成されたものではないなと。作品を作っていると、まだまだ面白いこと、やれることがあるなと感じます。

長編作品は、どのように作られるのですか?

簡単に言うと、作品の頭から最後までの台本を書きます。出来上がったら今度は実際に動いて撮影し、それを見て自分自身にダメ出しをする。何回も何回もそれを繰り返して完成に近づけていく、という感じです。

台本の時点ではセリフもあるのでしょうか?

セリフは一切書きません、所作だけです。何を言っているか頭の中にはなんとなくありますが、それを観客に伝えようとはしていません。例えば外国映画の場合、字幕があるとはいえ、俳優はなじみのない言語を話しているわけですよね。だけど、動きや表情から内容を理解できるはずです。それと同じ感覚だと思います。観る人が自分の中で会話を補完してくれればいい。

HIRO-PONさんの演技を見ていると、セリフが聞こえてくるような感覚があります。

従来のパントマイムは口を動かしませんが僕は動かすので、その影響もあるかもしれませんね。もちろん口の動きに意味はありませんが。声を出さずにセリフを言っているわけではないので。僕は「パフォーマー」と捉えられることが多いのですが、僕は役者で、舞台で見せているのは間違いなく演劇なんです。それは強く訴えたい。芝居を観ることを人生の醍醐味にしているような方には、ぜひ観てもらいたいです。MEGの読者には演劇好きな人も多いと思いますし。

パントマイムは、セリフのない演劇なのですね。

パントマイムとストレートプレイの違いは、演じる役者が喋るか喋らないかということ。どちらも、舞台上での表現は心の動きから派生するものであるべきだと思います。台本に書いてあるから動くのではなく、そこに必然性があるから動くわけです。台本に「ちょっと、水飲んでいいですか?」と書いてあるから言うんじゃなくて、水を飲みたいと思ってセリフを発しないと言葉が生きてこない。うまい役者は、セリフという武器を心の動きの中で使いこなして自分のものにして届けているんだと思います。僕の武器は所作ですが。

映画など映像作品での俳優の演技とは、また違いますか?

映画「ゴッドファーザー」で、アル・パチーノが目の動きだけで人を殺す前の心の動きを表現する名シーンがあります。ああいうことをパントマイムでやろうとすると、伝わらないんですよね。理由はわからないけれど、観客の目が離れる感覚がすごくある。舞台ってやっぱり嘘なんです、特にパントマイムは。嘘を上手に見せるから面白くなるんだけど、リアルに近づけ過ぎるとつまらなくなります。それから、演じる役のキャラクターに没入し過ぎるのも、マイムの場合は面白くなくなりますね。もしかしたら、舞台上には僕自身のキャラクターがちょっと生きているかもしれない。そういうものを見せないと、作品がつまらなくなる場合もあります。やってると、そういうことに気づかされますね。

現在、ツアー中のGAMARJOBAT THEATRE 2026「ピストルと少年」では、長編の新作を披露されます。実は今回の取材にあたり、東京公演のゲネプロの映像を事前に拝見したのですが、劇場で観るべきでした。

なんで見ちゃったの、ダメダメ!(笑) ただパントマイムの場合は、マチネとソワレでも見えてくるものは絶対違ってくるから。観る人がどこを切り取るかによって、受ける感情が変わりますし。毎回発見があるので何度も観てください。うちのおふくろは、東京公演4回とも観てますよ。でね、感想が毎回違うんです。「作品は育つ」と言いますが、そういうことかもしれません。僕自身、昨日より今日、今日より明日と、より良いものにしたいという思いで舞台に立っています。名古屋公演は5月ですが、それまでに各地で何公演かありますから、自然と変化していくと思います。

ところで、が〜まるちょばの公演は音楽にあふれていますよね。劇中だけでなく、開演前の客席で流れるBGMもセンスが良くて、毎回楽しみにしているファンも多いと思います。

毎回、選曲は自分でやっています。今回は、客入れや休憩のBGM、劇中で使う曲の多くを、45回転のアナログシングル盤からデジタルに落として使っているんです。だから、プツプツというレコード特有のノイズが入ってて。そんなの、お客さんにはわかんないと思うんだけれど。でも、せっかく大きな劇場で聴くんだから、そういうものも伝わればいいなと思っています。客入れの曲がいいと言って、いつも早めに来てくれる人もいるんですよ。

◎Interview & Text /稲葉敦子




5/5 TUESDAY・HOLIDAY
GRMARJOBAT THEATRE 2026「ピストルと少年」

【プログラム】
一部:大爆笑のが〜まるちょばショーと短編作品
二部:「ピストルと少年」
◎作・演出・出演/が〜まるちょば
チケット発売中
■会場/アマノ芸術創造センター名古屋
■開演/17:00(16:30開場)
■料金(税込)/全席指定 ¥6,000 
■お問合せ/東海テレビチケットセンター
TEL. 052-954-1107(平日10:00〜17:00)
※未就学児入場不可



「見たことがないものこそが花」能・狂言、日本舞踊、フラメンコが融合し新しい調和が生まれる瞬間を目撃してほしい

ジャンルを超えた作品づくりで芸術の可能性を探り続ける、野村萬斎。近年は、能・狂言、日本舞踊、フラメンコの融合でバレエ音楽に挑んでいます。昨年12月におこなわれた堺市での再演も記憶に新しい中、今年は全国ツアーを実施。大千秋楽の名古屋公演では、どんな新しい表現に遭遇できるでしょうか。

今年は「恋は魔術師」の作曲家、マヌエル・デ・ファリャ生誕150周年ですね。

ファリャという作曲家は非常に魅力的です。生まれ育ったアンダルシアという土地は中東やアフリカなどのさまざまな文化が融合した場所であるらしく、彼の音楽性も非常に多様で、面白い響きがたくさんあります。それを、雑食性の強い民族である我々日本人の手で、能・狂言から日本舞踊、そしてフラメンコを混ぜ合わせることで唯一無二の表現として立ち上げようというのが、この企画です。「恋は魔術師」はバレエ音楽ですが、実はバレエとして上演される機会は意外と少ない。2024年の初演を経て、昨年12月の堺市での再演はフラメンコの要素を取り入れました。今回は、そこからさらに同調性を高め、練り上げたいと考えています。


舞う際に、邦楽との違いに戸惑われたことなどはありますか?

カウントとの向き合い方ですね。能・狂言は、音の中でたゆたうように演じます。1から4という拍の間に、決まった動作が終わっていればいいという感覚です。しかし、ファリャの音楽は変拍子が多く、非常に複雑です。単に音に身を任せるだけでは、字余りや字足らずのようなズレが生じてしまう。そこで、フラメンコの工藤朋子さんや、歌舞伎舞踊とフラメンコの融合を実践されている中村壱太郎さんの知恵を借りました。指先の表現ひとつから、スペインの人はこのリズムをどう捉えるのかを肉体的なアプローチで学ぶことで、私たちも拍の取り方を整理できたんですね。そうやって緒をうまく見つけながら表現を磨いていけるという点でも、コラボの意味は大きいと思います。非常にいい勉強をさせていただいています。

萬斎さんとクラシック音楽の融合というと「ボレロ」の印象も強いです。

「ボレロ」は、日本の古い音楽のように同じ旋律を繰り返して、どちらかというと縦ノリなんですね。縦ノリは気持ちいいでしょ?「ボレロ」という作品は、芸能の根本である「気持ちよさ」に回帰していたものなのではないかと思います。モーリス・ベジャール振付の「ボレロ」も、ダンサーが踊る赤いテーブルの脚をよく見ると鳥居の形になっていたり、バレエでは普通あり得ないような下に圧を与えるポンピングなど、日本の、それも「三番叟」の影響を受けていると感じます。それなら、こちらも「三番叟」で「ボレロ」をやってみようと。ただ、今やお互い数百年を超えて普遍的な世界観を描いているという共通点もありますし、クラシック音楽と日本の古典芸能が近くなっているという仮説も立てられるかもしれません。

能・狂言、日本舞踊、フラメンコのコラボレーションでめざすのは、どんなことでしょうか?

コラボレーションにおいて最も避けたいのは、お互いが安全な場所に留まることです。既存の型を異なるジャンルの音楽に合わせるだけで終わってしまったり…。それは一種の「逃げ」でもあると思います。ですから私たちは「新しい型」を生み出すことにこだわりました。例えば、フラメンコの動きをそのままコピーするのではなく、一度自分の出自である能・狂言や日本舞踊の中に落とし込む。そうすることで、見たことのない新しい振り付けでありながら、身体表現として無理がなく、作品として整ったものに仕上げられたのではないでしょうか。

3つのジャンルが融合した全く新しい型の舞踊・音楽劇に、私たちは遭遇するわけですね。

そう思っていただきたいですね。世阿弥の言葉「秘すれば花」には、既視感のあるものではなく「見たことがないものこそが花」という精神が込められていると思います。 クラシック音楽の重厚な土台の上で、新しい調和が生まれる瞬間をぜひ目撃していただきたい。


オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との相性はいかがですか?

OEKとはもう5年ほどの付き合いになります。最初は、私たちが足拍子を踏むだけで、みんなびっくりしていました(笑)。こちらも匙加減がわからず、いきなり「バン!」と踏んでいたので。でも回を重ねるごとに、音楽の邪魔をせず盛り上げる一番いい踏み方がわかってきたし、オーケストラの皆さんもそれを受けて演奏してくださるので、いい関係だと思います。彼らは単なる演奏者ではなく、能・狂言での「囃子方」に近い存在です。オーケストラピットに押し込めるのではなく、舞台上で対等な関係として存在し、互いに気をひとつにして作品を囃し立てるというか…。この関係性が徐々に結実し、今回はさらにバージョンアップしたものになっていると思いますよ。

萬斎さんがクロスオーバーな作品づくりに挑み続けるのは、なぜですか?

日本の古典芸能やクラシック音楽には、いろいろな知恵が集積されています。大上段な言い方になりますが、一種の人類の叡智です。それをお互いが共有することで、新たなもの、面白いものを作っていければ、ジャンルを超えてお客さまの文化的意識も高まるはずです。いくら歴史や伝統があるといっても、面白くなければ観ていただけませんから。クロスオーバーは、他ジャンルのお客さまにも認めてもらうための力試しでもあります。何より今は、クロスしないと情報網にかからないという現実もありますよね。スマホを開けば自分の好きな情報しか流れてきませんから。一度検索すると、そのジャンルの情報が次々に上がってきますが、能・狂言にアクセスしない人にはいつまでも届きません。だからクロスオーバーさせることで、知ってもらうチャンスを増やしたい。「萬斎を見に来た」でも「歌舞伎が好き」「フラメンコが好き」でも、何でもいいんです。

名古屋公演が、ツアーの締めくくりです。

今回のツアーの最高の極みを、最終地である名古屋でお見せしたいですね。これをステップとして、次の公演や、いずれは海外公演にもつなげていきたいと考えています。プレトークでは、マエストロの松井慶太さんと、音楽的・演劇的な見地から作品を解き明かします。プログラムのひとつ、ラインベルガーの「オルガン協奏曲第2番」では、愛知県芸術劇場コンサートホールのパイプオルガンも堪能できますし、シューマンの「蝶々」と日本舞踊のコラボもあります。一度にいろんなものが観られる公演です。これを機に、今までバレエに興味を持っていた人が能・狂言を観ようかとか、日本舞踊も面白い、というようにクロスしてくると、やっぱり意味があるのではないかと思います。

◎Interview & Text /稲葉敦子



3/24 TUESDAY
野村萬斎 with オーケストラ・アンサンブル金沢
ファリャ「恋は魔術師」


【プログラム】
ラインベルガー:オルガン協奏曲第2番、シューマン:蝶々(オーケストラ版・舞…日本舞踊)、ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」
◎演出・出演/野村萬斎
◎指揮/松井慶太
◎振付/中村壱太郎、花柳源九郎 
◎出演/花柳ツル、工藤朋子(舞踊)、秋本悠希(メゾソプラノ)、大木麻理(オルガン)ほか

チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 S ¥7,000 A ¥6,000 B ¥4,000
■お問合せ/石川県音楽文化振興事業団 TEL. 076-232-0171
※未就学児入場不可



「僕がもう一度観客として観たかった」
演劇への愛と情熱と笑いが凝縮!
コメディミュージカル待望の再演!

2018年日本版の初演から7年、演劇ファンをうならせたコメディミュージカル『サムシング・ロッテン!』が戻ってくる。ブロードウェイ版では2015年にトニー賞9部門10ノミネートのうち1部門を獲得。多数のミュージカルやシェイクスピア作品へのオマージュが随所に登場する喜劇が再演決定。今作も演出を担う福田雄一氏に作品への想いを聞いてみた。

7年前に初めてこの作品を手掛けた福田さんですが、再演しようと思った理由を教えていただけますか?

僕、めったに言わないんです、再演したいって。一回ですべてやり切っちゃうんですよ。初演でこの作品もやり切った感覚はあったんです。でも、あまりに作品の内容と曲が好きすぎて、演出家ではなくお客さんとしてもう一回観たいな、って思ってしまった僕の好きが詰まりに詰まったミュージカルなんです。そういう感覚は初めてで。だから自分でやるしかないと。僕について、映画監督の印象が強い方もいらっしゃると思うんですが、数年前まで家族で年末年始に2週間ニューヨークに滞在してブロードウェイの舞台を毎日観に行くのが習慣だったんですよ。もう、ミュージカルが大好きで。人によって、福田雄一は原作の形を変えてしまう演出家だとみられているかもしれません。ミュージカルが好きじゃないんじゃないか、とまで思ってらっしゃる方もひょっとしたらいるかもしれない。でも、僕はミュージカルが大好きだからこそ、ちゃんと面白い形でお客さんに届けたいと思っています。

たくさんのミュージカルやシェイクスピア作品が盛り込まれていますが、福田さんが思う面白さや魅力ってどんなところでしょう?

まず、コメディとして切り口が面白いんですよね。売れない劇団の座長が、予言者ノストラダムスに騙されて、『ハムレット』と間違えて『オムレット』というミュージカルを一生懸命作る話ってだけで面白い。最初あらすじを聞いたとき、とてもブロードウェイでやるようなストーリーじゃないと思ったんですよ(笑)。しかも、世界的に天才だと目されているシェイクスピアが、実はナルシストな上に、主人公ニックの弟ナイジェルのノートからセリフをパクって台本にしているという設定で。ある演劇プロデューサーさんが教えてくださったんですが、シェイクスピアって本当にそんな噂があるんだよと。実は替え玉がいたんじゃないかという説もあるらしく、まさにこの役と似ているんですね。大人気ミュージカルのワンフレーズを詰め込んだ曲があるんですが、初演の時、この曲に対して拍手がもう1分近く止まらなかったんですよ。劇中にもたくさんの名作がでてきますが、まさか『アニー』まで入っているとは(笑)。

いろんな登場人物がいますがどの役柄に共感を?

例えば、中川晃教さん演じるニックがシェイクスピア全盛の時代に、売れない劇団をなんとかしよう、お客さんを呼ぶために頑張る一面って、僕と通じるところがあります。僕は学生時代からやっている「ブラボーカンパニー」という劇団があって、バラエティの放送作家になったのも脚本家や映画監督になったのも、すべては劇団にお客さんを呼びたかったからなんです。でもなかなかうまくいかないのが現実で、ものすごく苦労してきた。その経験がニックに重なるんですね。また、ニックはシェイクスピアと同じ時代に劇作家として苦しむわけですが、僕も同じ思いをした経験があるんです。バラエティの放送作家になった時、同じタイミングで鈴木おさむさんが入ってきたんです。僕はそれなりに自信があったんです、笑いに関しては。でも、鈴木おさむという人が会議に入った瞬間、彼の企画力、プレゼン力、トーク力を見たら、この人には勝てないなと。この人と戦っていかないと勝ち残れないのかと思った瞬間、絶望感しかなかったんですよ。その挫折からなんとか自力で自分の道を切り開いてきましたが、ニックの気持ちはよくわかる。一方シェイクスピアは次から次へと仕事が来るけど休む暇がないという嘆き。ありがたいことに、そんな一面も僕にはあって。仕事に追われながら脚本を書かなきゃいけない。でも、そんな簡単に脚本はかけるもんじゃないんですよ(笑)。ただね、僕はコメディの作家でもあるから、苦労しているとか言いたくないじゃないですか。コメディは、笑えるか笑えないかだから。書けなくて苦しんでいる姿は、みなさんに見せなくていい。だから、〝ノリでやってます″〝簡単に書いてます″って言い続けたい僕がいるんです。それがコメディ作家のあるべき姿だとずっと僕は思っていて。これはもう僕の信念でもあります。

福田さんご自身と重なる部分がたくさんあったからこそ、思い入れも強いんですね。今回、新しいキャストを起用されています。選んだポイントを教えてください。

シェイクスピア役の加藤和樹さんは、一見シリアスに見えて実はものすごく人懐っこいんですよ。彼なら1幕目はまじめに、2幕目は誰も見たことのないおもしろい一面を出してくれると思ってオファーしました。大東立樹君は、歌が上手いですよ、とプロデューサーさんから提案があって。実は、あとで気づくんですが、僕の作品の翻訳などをやっている長男・福田響志が子役をやっていた時、ミュージカルで立樹君と兄弟を演じていたんです。12年振りの再会であまりの縁にびっくりです。矢吹奈子さんは、指原莉乃さんがHKT48に移籍した時、あまりにかわいいからと当時小学6年生だった彼女を推していて、僕にもたびたび売り込みが(笑)。あれから約10年、こういう運命的な奇跡は大事にしないといけないなと思っています。さっしーファンにとっても激アツなのでは。石川禅さんは、コメディの達人。ノストラダムスの役は禅さんが最高だなと。

引き続き同じ役を演じるお二人について求めるものは?

中川晃教さんは、新鮮な気持ちで挑むんじゃないかな。ニックの妻ビー役の瀬奈じゅんさんは、僕にとってのミューズです。コメディの女神様。こんなに打てば響くタカラジェンヌはいないですよ。僕、思うんです。役者さんって、絶対みんな楽しいことをやりたいんですよ。映画でもそうで、映画監督の僕のところに豪華なキャストが集まる理由はそこだと思っています。監督の求めることに応えるだけの職業ではなく、自分が面白いって思うことを発信したくてやっている。そう僕は信じているんです。ミュージカルの役者さんもきっとそうだと思う。だから、今回も、ブロードウェイ版というベースに福田カラーをちょっと出すみたいな。
僕が世界で一番愛しているミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT』を演出した時、主演のエリック・アイドルが日本に来てくれたんです。エリックに「福田君ね、泣きのツボは各国共通だけど、笑いのツボは各国全部違うんですよ。君が日本でこれをやるということは、日本のお客さんがめちゃくちゃ笑えるように書き換えないと、君はコメディ作家としての義務を果たさなかったことになるよ」と言われて。この言葉はショックでしたね。この出来事は、コメディ作家人生の大きな分岐点となりました。

では、今回の再演もいろいろな出会いやこれまでの思いがたくさんつまったものになること間違いなしですね。

僕のミュージカル愛が全部つぎ込めるものになっているので、できれば今後3年に一度、再上演できたらいいなと思っています。今作は、ミュージカルのパロディシーンがいっぱい詰まったコメディですが、シェイクスピアが天才劇作家としてイギリスで君臨していたということさえ知っていれば、十分楽しめます。だから、難しいことはなにもありません。ミュージカルを見たことがないみなさんも、ぜひ足を運んでみてください。

◎Interview&Text/田村のりこ




2026/1/8 THURSDAY【チケット発売中】
ミュージカル「サムシング・ロッテン!」
■会場/オリックス劇場
■開演/1/8(木)18:00、1/9(金)13:00/18:00
   11(日)12:00/17:00、10日(土)・12日(月・祝)12:00
■料金(税込)/全席指定
★12:00&13:00公演
S席\15,000、A席¥10,000、B席¥7,000
U-25券¥6,000(当日引換券)
★17:00&18:00公演
S席\14,000、A席¥9,000、B席¥6,000
U-25券¥5,000(当日引換券)
■お問合せ/
ミュージカル「サムシング・ロッテン!」大阪公演事務所
TEL. 0570-666-255(土・日・祝除く平日12:00~17:00)



“Organic=無添加”な音楽へのこだわりを、デジタル時代のレコーディングで実現。驚きのニューアルバムを携えたホールツアーにも期待。

日本を代表するフュージョンバンド、カシオペアの元メンバー櫻井哲夫、神保彰、向谷実による、かつしかトリオ。2021年の結成以来、往年のファンから若い世代まで、多くの音楽ファンを魅了しています。現在、サードアルバム「“Organic”feat.LA Strings」を携えた全国ツアーがスタートしたばかり。11月の名古屋公演を前に、ナチュラルな音作りにこだわった海外レコーディング秘話、このトリオだからできる音楽活動について、たっぷり語ってくれました。

ニューアルバムを聴いて驚きました。

向谷:そう受け取っていただけたのは、ありがたいですね。この1〜2年、通常のエレクトリックを中心としたコンサートとは別に、アコースティックのクラブギグをやっていたんです。そこで、次にアルバムを作るならオーガニックな感じでストリングスを入れたレコーディングができたら…という思いが生まれて。

神保:向谷さんは、昔からシンセサイザーで弾いていたストリングスのパートを「スコアを書いて生でやりたい」と言ってましたよね。

伝説的なレコーディングエンジニア、ドン・マレーを迎えたロサンゼルスでのレコーディングも話題です。

神保:僕は昔からドン・マレーさんに憧れていて、ずっと一緒に仕事がしたいと思っていたんです。長年の思いが、すべてうまく結実しました。先日、オーディオ専門誌の取材を受けたのですが、そのライターの方が、ここ10年で聴いた作品の中で最高音質だと言ってくださったんですよ。

向谷:出だしのドラムの音を聴いた瞬間に「ああ、この音なんだよな」と思ったよね。


L.Aでのレコーディング風景

ドン・マレーの起用で狙ったのは、どんなことですか?

向谷:ずばりオーガニック、無添加です。最近の音楽は、商品の作り込みとして、いろいろエフェクトをかけたり、細かいバランスをとったり、コンプレッサーをかけて押さえ込んだり逆に突っ込んだり…という一定の傾向があります。今回は、僕たちが経験してきたナチュラルな良い音楽へのこだわりを、今のデジタルの時代でも反映できたと思います。専門的な話になってしまいますが、録った音の波形がトップと下の間にものすごくきれいに収まっているんです。つまり、強弱をきっちりと追えているんですね。上に行って歪んでないし、下もきれいに保たれているということ。オーディオの専門家によると、今回の録音は「驚きの波形」だそうです。それがドン・マレーのレコーディングテクニックであり、バーニー・グランドマンのマスタリング技術。どちらも巨匠ですからね。アナログのカッティングの時代から音楽を作ってきた人たちにお願いしたことで、“Organic”の狙いを達成できたと思っています。

櫻井:加工していない分、スーパーナチュラルな音質、音量を実現できましたよね。3人のドラム、ピアノ、ベースも、楽器本来の音をすごく美しくまとめてもらいました。

加工しないサウンドづくりは、具体的にどのように進められたのですか?

神保:レコーディングは、ドンさん推薦のスタジオで。しかも「この部屋」とピンポイントで指定してくれて。

櫻井:余計な加工をしなくて済むスタジオを選んでくださったんですよね。

神保:その空間と、そこにある機材と、長年使われてきたピアノやドラム、そしてロサンゼルスのあの気候。そういうものすべてが、日本とは違う音を生んだと思います。

向谷:マイクの立て方がポイントかなと思ったけど。ピアノも、ドンのマイキングで録られた音をモニターした瞬間、めちゃめちゃいい音だった。多分、ほぼリバーブかけてなくて、残響だけだよね。

櫻井:それ見てたけど、ピアノの下の絨毯と周りの環境をちょっとずらすだけでまとめている感じだった。

向谷:スタジオ鳴りだけでね。だから勉強になりましたよ。ドン・マレーさんが長年築き上げたスーパーナチュラルな音は、大きくきれいに録ることで生まれるんだな、と。

櫻井:ドラムとピアノのマイクにそれぞれの音がちょっとずつかぶってても気にしない、みたいな。だから、スタジオライブをやっている感じなんですね。

見た目と違世界的なシティポップブームが続いていますが、海外の音楽ファンの間では日本のフュージョンも盛り上がっていますね。った謙虚さがすごいです。

神保:80年代のJフュージョンが再評価されていて、高中正義さんやカシオペアもアナログ盤のセールスがすごくいいそうですね。

櫻井:アメリカで昔のカシオペアのアルバムがチャート1位になったり、ヨーロッパでもすごく評価が高くなっていて、若い人がいっぱい聴いてくれているみたい。ロサンゼルスでレコーディング中、ドジャーズ戦を見に行ったら、僕らを日本人だと気づいた前の席の人が、「これ知ってるか?」と、高中さんのCDを見せてきて。高中さんが大成功させたロサンゼルスのコンサートに行ったんですって。「もちろん知ってるよ」と答えたら、「なんでだ?」って聞くから「僕らミュージシャンだ」「え?」「カシオペアだよ」「えっ??」って。

バンドとして、個々のミュージシャンとして、さまざまな経験を経て、かつしかトリオという強靱な編成を組まれた今、どんな心境で音楽をなさっているのでしょうか?

向谷:人間同士が集まって何かすれば当然、考え方や方向性の違いが出てきます。音楽の場合、それが魅力になってバンドを支えることもあるし、問題になってメンバーが別れてしまうこともある。そういう経験を経て、今のこの3人はセルフプロデュースというスタイルをとっていることが強みだと思います。特定のリーダーを立てたり、誰かが中心に曲を書いたりせず、すべて共同で考えて共作するという。出版や原盤という音楽の外側に関することや、コンサートツアーの制作についても、そうです。長年、バンドや音楽活動を経験していろんな課題に直面してきましたが、この年齢になったら、もう本当に明るく楽しく、心地よくやりたいから。かつしかトリオはそこを徹底して、楽曲もパフォーマンスも、いろいろな権利もすべて3人のものであることを守り続けたいと思っています。あとは健康ですね。一人抜けたら、このトリオは成り立たないから。

櫻井:この歳になると、健康じゃないと何もできなくなりますから。特にバンド活動は体力が要るので。コンサートツアーなんて、ものすごいエネルギーを使いますしね。

今回のツアーの構想などをお聞かせください。

2024年11月26日のライブより


向谷:ニューアルバム中心になりますが、過去2作のアルバムも、アレンジや演奏の内容を変えて皆さんに楽しんでいただける要素は十分あります。現時点で、かつしかトリオとしての新曲が25曲あるわけで、けっこう贅沢なバンドになりました。総合芸術としてもかなり凝ったライブをやろうと考えています。

櫻井:この2年間ホールツアーをさせていただいていますが、昨年から映像のグレードが一段と上がりました。僕らの音楽とのコラボで、すごく印象が変わるバンドになったと思います。音源を聴くだけとは違う、大ホールのかつしかトリオの魅力をお届けできると思っています。

神保:ライブは観客の皆さんとのエネルギーの交換の場ですよね。リアルがどんどん失われている今の時代、すごく貴重な時間と空間だと思います。


2024年11月26日のライブより


櫻井:インストバンドですけど、お客さんに歌ってもらったり、曲に合わせて振り付けしたり…。

向谷:神保さん、そういうの考えるの得意だよね。でも、それをお客さんにお願いする役は、いっつも僕なんだよ(笑)。

神保:今回もいろいろ考えていますよ、実は。

◎Interview/福村明弘 ◎Text/稲葉敦子



11/4 TUESDDAY
音楽館 40th Anniversary Presents
かつしかトリオ LIVE TOUR 2025 Organic 愛知公演

チケット発売中
■会場/Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 ¥8,500
■お問合せ/サンデーフォークプロモーション TEL. 052-320-9100
※未就学児入場不可


NOW ON SALE!
かつしかトリオ 3rd ALBUM
「"Organic" feat. LA Strings」
¥3,300(tax in)
YCCS-10124



森の闇に身を潜めるような没入感を味わいながら楽しむ、密度の高い会話劇。

口腔がんの研究と演劇を両立するハイブリッドな劇作家・河合穂高の作品が、この秋、三重で初上演。第8回せんだい短編戯曲賞を受賞した注目作「黄色の森」を、下鴨車窓の田辺剛が演出します。豊岡公演を皮切りにスタートした4都市ツアーの三重公演に向け、劇作や演出の魅力を探ります。

取材日:2025年9月7日

河合さんは、ご自身の研究領域である最先端医療の知見を生かしたSF的な劇作で注目されています。

河合:SFというよりホラー要素が強いかもしれませんね。よくわからない漠然とした怖さ、恐怖の根底みたいなものを描きたくて。最近のサイエンスは、人間の生命と逼迫していて、ちょっと怖いですよね。例えば老化の研究などにおいても、人間が歳を取らないようにするアプローチを試みていたり。そういう怖さに迫りたくて戯曲を書いているように思います。今回の「黄色の森」にも、漠然とした不安や恐怖を象徴するものとして、黄色い飛行船を登場させています。

田辺:河合さんは口腔がんの研究者ですが、その知見を物語に編み込める技量を持っています。ちょっと調べた程度では書けない専門的なことを、自然と物語に絡めて作品として成立させる。それができる人はなかなかいませんし、とてもユニークな作家だと思います。

田辺さんは哲学の研究を目指して大学院に進学した経歴をお持ちです。研究や学問と劇作の関連性や、おふたりの共通点などはありますか?

田辺:僕は研究者になるのをやめて劇作家になったので、ハイブリッドの河合さんとはちょっと違うかもしれない。哲学からのアプローチで人間について考える中で言葉について掘り下げていました。そこで、言葉を考えるということは演劇にも通ずると思ったんですね。論文にするか演劇にするか、アウトプットの違いだけだと。そういう意味では、考えていることは当時も今も変わっていません。

河合:僕にとっては、論文も戯曲も、大きな意味でひとつのアウトプットです。事実だけを積み重ねるのが科学の研究ですから、劇作のようなフィクションは何の根拠もないものを蓄積する行為のように思ったこともあります。ただ、人間はフィクションを必要とする生き物で、それを信じるのも人間にしかできないことだと思います。事実を積み重ねることとフィクションとしての事実を積み重ねる行為は、同じじゃないかと。だから、研究者をやっててよかったなと思うことはあります。


豊岡演劇祭でのゲネプロ風景1_撮影松本成弘


「黄色の森」は、山道に迷った3人の女性が森の中で過ごす一夜を描く物語。女子同士のリアルで自然な会話劇が展開されます。

河合:僕の作品は女性の主人公が多いんですよ。もともと自分に、ちょっと中性的なところがあるんだと思います。ジェンダーの枠にはめたりするのもすごく嫌いで、「長男だから」とか「男らしく」と言われることにも反発心がありました。そんなところが案外関係しているかもしれません。

田辺:確かに、河合さんの女性の描き方に違和感を感じたりしたことはないですね。そもそも、女性のことを描けない作家は男性も描けないと思いますし。ある種の伝統的なジェンダー観に凝り固まった書き方しかできない人は、結果的にどちらも書けないということですから。

登場人物は、休職中の高校教師、職を失った女性、テロに巻き込まれた大学職員。不安や苦悩を抱える彼女たちが心情を吐露しながら物語は進みます。作品の原型は2016年に書かれた「深海魚の森」ですが、改稿を進める上でコロナ禍を経た世の中の閉塞感などは投影されていますか?

河合:そう思います。2016年の段階でも黄色い飛行船は登場していましたが、ひとつの要素に過ぎませんでした。ただ、コロナ禍を経て物語を再構築したときに、黄色い飛行船は自分の中にある漠然とした閉塞感のようなものの表れだということが、はっきりしました。解像度が上がってきた感じですね。

田辺:最初はテロも入ってなかった?

河合:テロは入れていました。パリ連続襲撃事件があった頃でしたから、あれが日本で起こったという世界観にしたんです。今回、そこに感染症も盛り込みました。

夜更けの森で焚き火をしているというワンシチュエーションのドラマ。その世界を舞台上でどう表現されますか?

田辺:劇場の客席を森に見立てようと考えています。舞台上に客席を設け、観客の皆さんも森の一部として3人を囲むように存在する。そして、3人の後ろに広がる森の奥の闇を感じられるような舞台機構ですね。空間の使い方としては贅沢です。ツアーの幕開けとなる豊岡市民会館の座席数は1,200席近くありますが、今回は70席(笑)。本来の客席は全部、森になりますから。三重県文化会館の小ホールは舞台から客席後部に向かっての傾斜が比較的強いので、森の奥行きをより感じられるんじゃないでしょうか。あの高低差からくる見え方は、面白かろうと思います。


豊岡演劇祭でのゲネプロ風景2_撮影松本成弘

実際に森の中にいるような没入感を味わえそうですね。

田辺:そうですね。俳優たちから見ると、観客の皆さんは森に潜んでいる動物のような立場。そんな仕掛けになればと思っています。私自身の劇作でも常に、環境を強調したいと考えているんです。人物よりも、その周辺環境の方が偉いというか。どんな物語でも登場人物の内面が描かれますが、いきなり喋り出すのではなく、環境が語らせるということもあります。森の中だからとか、夜だからとか。その人自身より、その人が依って立つ場所の方が大切なんじゃないかと思っていて。観てくれる人に、人間より空間の存在の方が大きいと感じてもらえるような構造にしました。今回はそういう物語でもあるので。

河合:そうですね、巨大な何かに自分たちが包括されることをイメージして書きました。「周辺環境の方が偉い」というのは、田辺イズムのひとつですよね。その場所や設定から登場人物たちを規定していくのは、僕も劇作で大事にしていることです。今回の作品でも、森の中でしか喋れない話とか3人の関係性は、すごく意識しました。

河合さんの作品が三重で上演されるのは初めてですね。

河合:以前、岡山で、第七劇場の鳴海康平さんの演出助手をさせていただいたことがあるんです。鳴海さんのような尖った演出家を受け入れる三重という土地は、普通じゃないよなと思っていて(笑)。今回そこに呼んでいただけたのは、すごく嬉しかったです。

田辺:三重でやるのは怖いんですよ。劇場に付いたお客さんがいらっしゃって、目が肥えているので。年間ラインナップの組み方もよく考えられていて、間口の広い作品と尖ったものをバランスよく取り揃えていますよね。観客を作るという作業をずっと続けてこられた劇場ですから、そこに入っていくのは、なかなか勇気が要ります。でも、とてもいい緊張ですよね。この年齢になると、批評的なことを誰も言ってくれないので(笑)。下鴨車窓としても、また来させてもらいたいです。

◎Interview & Text /稲葉敦子


10/18 SATURDAY 10/19 SUNDAYチケット発売中
Mゲキセレクション 河合穂高×下鴨車窓「黄色の森」
◎作/河合穂高 ◎演出/田辺 剛(下鴨車窓)
◎出演/坂井初音、福井菜月(下鴨車窓)、高瀬川すてら(劇団ZTON)
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/10月18日(土)13:00、18:00※ 10月19日(日)13:00※
※アフタートークあり
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般 前売¥3,000 当日¥3,500 22歳以下 前売¥2,000 当日¥2,500 
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL. 059-233-1122
※未就学児入場不可