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2018年日本版の初演から7年、演劇ファンをうならせたコメディミュージカル『サムシング・ロッテン!』が戻ってくる。ブロードウェイ版では2015年にトニー賞9部門10ノミネートのうち1部門を獲得。多数のミュージカルやシェイクスピア作品へのオマージュが随所に登場する喜劇が再演決定。今作も演出を担う福田雄一氏に作品への想いを聞いてみた。
7年前に初めてこの作品を手掛けた福田さんですが、再演しようと思った理由を教えていただけますか?
僕、めったに言わないんです、再演したいって。一回ですべてやり切っちゃうんですよ。初演でこの作品もやり切った感覚はあったんです。でも、あまりに作品の内容と曲が好きすぎて、演出家ではなくお客さんとしてもう一回観たいな、って思ってしまった僕の好きが詰まりに詰まったミュージカルなんです。そういう感覚は初めてで。だから自分でやるしかないと。僕について、映画監督の印象が強い方もいらっしゃると思うんですが、数年前まで家族で年末年始に2週間ニューヨークに滞在してブロードウェイの舞台を毎日観に行くのが習慣だったんですよ。もう、ミュージカルが大好きで。人によって、福田雄一は原作の形を変えてしまう演出家だとみられているかもしれません。ミュージカルが好きじゃないんじゃないか、とまで思ってらっしゃる方もひょっとしたらいるかもしれない。でも、僕はミュージカルが大好きだからこそ、ちゃんと面白い形でお客さんに届けたいと思っています。
たくさんのミュージカルやシェイクスピア作品が盛り込まれていますが、福田さんが思う面白さや魅力ってどんなところでしょう?
まず、コメディとして切り口が面白いんですよね。売れない劇団の座長が、予言者ノストラダムスに騙されて、『ハムレット』と間違えて『オムレット』というミュージカルを一生懸命作る話ってだけで面白い。最初あらすじを聞いたとき、とてもブロードウェイでやるようなストーリーじゃないと思ったんですよ(笑)。しかも、世界的に天才だと目されているシェイクスピアが、実はナルシストな上に、主人公ニックの弟ナイジェルのノートからセリフをパクって台本にしているという設定で。ある演劇プロデューサーさんが教えてくださったんですが、シェイクスピアって本当にそんな噂があるんだよと。実は替え玉がいたんじゃないかという説もあるらしく、まさにこの役と似ているんですね。大人気ミュージカルのワンフレーズを詰め込んだ曲があるんですが、初演の時、この曲に対して拍手がもう1分近く止まらなかったんですよ。劇中にもたくさんの名作がでてきますが、まさか『アニー』まで入っているとは(笑)。
いろんな登場人物がいますがどの役柄に共感を?
例えば、中川晃教さん演じるニックがシェイクスピア全盛の時代に、売れない劇団をなんとかしよう、お客さんを呼ぶために頑張る一面って、僕と通じるところがあります。僕は学生時代からやっている「ブラボーカンパニー」という劇団があって、バラエティの放送作家になったのも脚本家や映画監督になったのも、すべては劇団にお客さんを呼びたかったからなんです。でもなかなかうまくいかないのが現実で、ものすごく苦労してきた。その経験がニックに重なるんですね。また、ニックはシェイクスピアと同じ時代に劇作家として苦しむわけですが、僕も同じ思いをした経験があるんです。バラエティの放送作家になった時、同じタイミングで鈴木おさむさんが入ってきたんです。僕はそれなりに自信があったんです、笑いに関しては。でも、鈴木おさむという人が会議に入った瞬間、彼の企画力、プレゼン力、トーク力を見たら、この人には勝てないなと。この人と戦っていかないと勝ち残れないのかと思った瞬間、絶望感しかなかったんですよ。その挫折からなんとか自力で自分の道を切り開いてきましたが、ニックの気持ちはよくわかる。一方シェイクスピアは次から次へと仕事が来るけど休む暇がないという嘆き。ありがたいことに、そんな一面も僕にはあって。仕事に追われながら脚本を書かなきゃいけない。でも、そんな簡単に脚本はかけるもんじゃないんですよ(笑)。ただね、僕はコメディの作家でもあるから、苦労しているとか言いたくないじゃないですか。コメディは、笑えるか笑えないかだから。書けなくて苦しんでいる姿は、みなさんに見せなくていい。だから、〝ノリでやってます″〝簡単に書いてます″って言い続けたい僕がいるんです。それがコメディ作家のあるべき姿だとずっと僕は思っていて。これはもう僕の信念でもあります。
福田さんご自身と重なる部分がたくさんあったからこそ、思い入れも強いんですね。今回、新しいキャストを起用されています。選んだポイントを教えてください。
シェイクスピア役の加藤和樹さんは、一見シリアスに見えて実はものすごく人懐っこいんですよ。彼なら1幕目はまじめに、2幕目は誰も見たことのないおもしろい一面を出してくれると思ってオファーしました。大東立樹君は、歌が上手いですよ、とプロデューサーさんから提案があって。実は、あとで気づくんですが、僕の作品の翻訳などをやっている長男・福田響志が子役をやっていた時、ミュージカルで立樹君と兄弟を演じていたんです。12年振りの再会であまりの縁にびっくりです。矢吹奈子さんは、指原莉乃さんがHKT48に移籍した時、あまりにかわいいからと当時小学6年生だった彼女を推していて、僕にもたびたび売り込みが(笑)。あれから約10年、こういう運命的な奇跡は大事にしないといけないなと思っています。さっしーファンにとっても激アツなのでは。石川禅さんは、コメディの達人。ノストラダムスの役は禅さんが最高だなと。
引き続き同じ役を演じるお二人について求めるものは?
中川晃教さんは、新鮮な気持ちで挑むんじゃないかな。ニックの妻ビー役の瀬奈じゅんさんは、僕にとってのミューズです。コメディの女神様。こんなに打てば響くタカラジェンヌはいないですよ。僕、思うんです。役者さんって、絶対みんな楽しいことをやりたいんですよ。映画でもそうで、映画監督の僕のところに豪華なキャストが集まる理由はそこだと思っています。監督の求めることに応えるだけの職業ではなく、自分が面白いって思うことを発信したくてやっている。そう僕は信じているんです。ミュージカルの役者さんもきっとそうだと思う。だから、今回も、ブロードウェイ版というベースに福田カラーをちょっと出すみたいな。
僕が世界で一番愛しているミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT』を演出した時、主演のエリック・アイドルが日本に来てくれたんです。エリックに「福田君ね、泣きのツボは各国共通だけど、笑いのツボは各国全部違うんですよ。君が日本でこれをやるということは、日本のお客さんがめちゃくちゃ笑えるように書き換えないと、君はコメディ作家としての義務を果たさなかったことになるよ」と言われて。この言葉はショックでしたね。この出来事は、コメディ作家人生の大きな分岐点となりました。
では、今回の再演もいろいろな出会いやこれまでの思いがたくさんつまったものになること間違いなしですね。
僕のミュージカル愛が全部つぎ込めるものになっているので、できれば今後3年に一度、再上演できたらいいなと思っています。今作は、ミュージカルのパロディシーンがいっぱい詰まったコメディですが、シェイクスピアが天才劇作家としてイギリスで君臨していたということさえ知っていれば、十分楽しめます。だから、難しいことはなにもありません。ミュージカルを見たことがないみなさんも、ぜひ足を運んでみてください。
◎Interview&Text/田村のりこ
2026/1/8 THURSDAY【チケット発売中】
ミュージカル「サムシング・ロッテン!」
■会場/オリックス劇場
■開演/1/8(木)18:00、1/9(金)13:00/18:00
11(日)12:00/17:00、10日(土)・12日(月・祝)12:00
■料金(税込)/全席指定
★12:00&13:00公演
S席\15,000、A席¥10,000、B席¥7,000
U-25券¥6,000(当日引換券)
★17:00&18:00公演
S席\14,000、A席¥9,000、B席¥6,000
U-25券¥5,000(当日引換券)
■お問合せ/
ミュージカル「サムシング・ロッテン!」大阪公演事務所
TEL. 0570-666-255(土・日・祝除く平日12:00~17:00)











