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「山﨑まさよし」スペシャルインタビュー
取材日:2014.10.24

昨年秋、約3年ぶりのオリジナルアルバム
「FLOWERS」をリリースした、山崎まさよし。
ボブ・マーリーの名曲カバーや、憲法9条についての思いを綴った歌を収録した
骨太な新作を世に放った彼が、今、アーティストとして思うこととは…。

山崎さんというと弾き語りをまず思い浮かべます。もともと、ご自身に合ったスタイルだったのでしょうか?

ひとりでも出来るというスタイルですよね。多くのミシシッピ・デルタ・ブルースや、ライトニン・ホプキンスとか…そういうスタイルで行きたくて。最初はバンドを組んでいましたが、メンバーがみんなほかに仕事をもった状態だったので、上京するにあたっては、おそらくひとりで表現する場が増えていくだろうと思っていたんです。バンドだとメンバー募集から始めなきゃいけないし。それに自分自身、ギターにしても歌にしてもどっちつかずなところがあったんですよ。「当方ボーカル」って書いていいのか「ギター」って書いていいのかわからないという(笑)。確固たるやり方を持ってなかったんでしょうね。でも、やっぱり性に合ってたんですね。気が楽だったんです。バンドを組んだりサポートメンバーを入れたりするのは気を遣うだろうし。その代わり、ひとりだから忙しいと言えば忙しい。

前回のツアーはトリオバンドで回られるなど、現在はいろいろな編成でなさっていますが、もちろん山崎さんが主導権を握って、あくまでも弾き語りの延長線上にバンドがあるという感じでしょうか?

バンドのアンサンブルと捉えるときは、自分も完全に一メンバーだと思っています。ギター、ボーカル担当という。みんなと合奏するというところにおいては、歌もあまり独立せずに、インストゥルメンタルのひとつという組み込まれ方をしたいんですよね。トリオバンドだと、ひとりが何かしなかったらもうスカスカなんですよ。そこがまた結構スリリングなんですけどね。



ツアー中に、最新アルバム「FLOWERS」のために書かれた曲をいち早く披露なさっていましたね。

そういうことをしたのは初めてじゃないですかね。出来た先からすぐに聴いていただきたいという気持ちがあって。そもそも、アルバムがないのにやってたツアーですから、そこで間違おうが、こういうもんだと。そういう自由度はありましたよね。お客さんも予習するにも資料がないというツアーだったから「これ新しく出来た曲です」ってちょっと聴いてもらう、みたいなことが出来ましたよね。

アーティストによっては、まだリリース前の曲をたくさんライヴで披露することもありますが。

そこまでの勇気はないですね(笑)。ボーカリストとか演奏家というのは、やっぱりある程度自分がプレイすることによる刺激が欲しいんですよ。ずっと人から求められるものに応えるというのは、どこかやっぱりストレスがあるんじゃないですかね。ジミ・ヘンドリックスなんかも実はやりたい新しい曲があったけど、どうしても「ヴードゥー・チャイル」を外せないとかね。僕もやっぱり「バラードをやって欲しい」とか言われ過ぎると、それだけじゃないんだよという気持ちになったりはします。

 
近年の山崎さんは、あまりキャッチーにばかり走らない普遍的で良質な曲を作っていらっしゃるように思います。年齢や経験によって、考え方などに変化はありますか?

こういう仕事をしている人には、二通りあると思います。クライアントに求められているものに対して、自分の体を通してどう表現するかを追求する人。音楽人として、一生を通して自分がどんな足跡を残せるかを追求する人。僕は、そのふたつの間をずっとグルグル回っている感じです。クライアント…企業とか映画会社とか…に自分が求められている声だったり、今までの作品を聴いてくれて「こういう曲を書き下ろして欲しい」と言われるのは実は嬉しいんです。だから、台本があればそれを読ませていただいたり取材させていただきたい。そういう仕事的な部分もありながら、自分自身と向き合ったときに果たして音楽でどういうアプローチをしていくかという…このふたつなんですね。今回の「FLOWERS」なんかは、前作から3年の間に震災があったし、時代とどうやって向き合ったらいいのかとかちょっと考えましたよね。状況を受け入れながら、なおかつ活動をやっていくにはどういうスタンスだといいのか。やっぱり出来ることをやるいう部分に立ち返った場合、アルバムを作るとか歌を書いて…というのではなくて、いろんなところに行ってライヴをするしかないだろうと。


「FLOWERS」はアレンジがとてもシンプルで、山崎さんの歌いぶりがとても光っているように感じます。

曲を書いたのも収録したのも震災後なんですね。だからやっぱり、ちょっと隠れたテーマがあるような気がしていて。歌詞においても、太陽とか星空とか自然界の絶対的な象徴…失われないものという、そういうものに凄く意識が行ったのかもしれません。ああいった出来事が起こると、人が作ったものは壊れたりなくなったり、風化したりもするから。歌いっぷりというところで思い切りよくなっているのは、残すという意識の現れなのかもしれませんね。やっぱり残された人というのは、何か受け継ぐものがあるから前に進んで生きていこうという気持ちになるんじゃないかと思います。受け継ぐという行為を放棄すると、なんとなくそこで止まってしまうんじゃないかな。再生とか復興というのは、去っていった人たちから我々が何かを頂いて前進していく。そういうことのような気がするんですよね。


 
収録曲の「♯9STORY」は、アルバムの最後から二番目でリプライズされていることもあり、山崎さんからの強いメッセージを感じます。この曲はどんな思いで作られたのでしょうか?

憲法9条について歌っています。この問題にしても賛否両論いろいろあると思うんですよね。いずれにしても、次世代、子どもが怖い夢を見ないような世の中になることが一番だと思う。英語の曲にすることは最初から考えていたんですが、単なるクリスマスソングにしようと思っていました。なんの不安も迷いもないような、ただ子どもの目線から何かを歌う歌にしたかった。でも、スタジオでスタッフと話していたときに、憲法改正に多くの人が賛成しているという話を聞いて空恐ろしい気持ちになりました。それで、急遽そういう歌に変えてみたんです。

山崎さんの歌としては珍しいですよね。

珍しいですね。例えばもっと議論があってもいいし、もっとザワザワしていいと思うんです。原発とか復興とかTPPとかいろいろある中で、今後どういうことがネックになっていくのかと考えると、やっぱり音楽にするにはきれいな曲じゃないとダメなんですよね。昔、サイモン&ガーファンクルが「7時のニュース/きよしこの夜」で、凄くきれいなクリスマスソングの中にニュースの音声を重ねていました。あんな風に、ちゃんと歌として音楽としてきれいに成立しているものの中で、危機感を持たせるということをやってみようと。

2月には稲沢市で。大友康平さんと共演されます。

学生の頃、ドラムを叩いていたときは、よくハウンドドッグをコピーしていました。年間に相当多くのライヴをやってたバンドですよね。そういうところを非常に尊敬しています。ソロになってもいろんな経験をしてきていらっしゃるし。一度ご一緒させていただいたことがあるんです。大阪でラジオのゲストに来ていただいたこともありますし。今度ご一緒するのは15年ぶりぐらいなので、とても楽しみにしています。