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「野村萬斎」スペシャルインタビュー
取材日:2025.09.30


狂言・能のみならず、現代劇や映像で俳優として活躍。
演出家としても数多くの舞台を手がけている鬼才が
室内楽の名門オーケストラ・アンサンブル金沢を率いてフェニーチェ堺に初登場。
プログラムの目玉として、ファリャのバレエ音楽《恋は魔術師》を
フラメンコや日本舞踊、能楽の要素と融合した音楽劇として届ける。


2021年より石川県立音楽堂の邦楽監督、2024年よりアーティスティック・クリエイティブ・ディレクター(芸術監督)を務められています。《恋は魔術師》は同音楽堂のレジデントオーケストラであるオーケストラ・アンサンブル金沢とのコラボで、新しい舞台をプロジェクト「MANSAICREATIONBOX〜萬斎のおもちゃ箱」の第2弾として2024年の2月に上演されたものですね。

2022年の第1弾でラヴェルの《ボレロ》をとりあげて好評をいただき、次も舞曲的なものを考えていたところ、以前からスペインのフラメンコと日本の古典芸能に共通点があると感じていたのを思い出しました。ひとりのダンサーをとり囲んで周りが手拍子や足踏みで“気”を送る様子は、能楽で登場人物を「謡」と「囃子」で盛り上げるのに似ています。そんな時にシスティーナ歌舞伎の『GOEMON』でスペインの音楽にあわせて踊る中村壱太郎さんの動画をYouTubeで拝見して、これだ!と思った。それで彼に日本舞踊の振付と出演をお願いして、一緒に音楽劇《恋は魔術師》の舞台を作り上げていったのです。


1幕のバレエ音楽としてファリャが作曲した《恋は魔術師》は、スペインの南部・アンダルシア地方の民族的な特色をとりいれたドラマティックな音楽(※オーケストラにメゾ・ソプラノの独唱が加わっているのが特徴)にのせて、男女の愛憎劇が展開します。「萬斎のおもちゃ箱」版では、夫を亡くした若いジプシー女カンデーラの役を、壱太郎さんとメゾ・ソプラノの秋本悠希さんの二人が(身体表現と内面の声として)分担して演じ、萬斎さんは亡き夫の亡霊として出演。その嫉妬深い亡霊を誘惑してほしいとカンデーラが依頼した美しい女友だちルシーアの役を、これも壱太郎さんが演じられていたのが面白いと思いました。

やはり生きた人間の役は歌舞伎の方に任せて、霊的存在は能楽にはお馴染みの表現形式ですので、私が演じることで夫の亡霊により実感を持たせることができると考えました。前回は中村壱太郎さんがカンデーラとルシーアの二役を歌舞伎的な早変わりで見せる効果などをねらいましたが、そのあたりが少しわかりづらかったという意見もありましたので、今回はカンデーラ役を(二代目)花柳ツルさん、ルシーア役をスパニッシュ・ダンサーの工藤朋子さんで演じ分けてもらうことにしました。ツルさんは藝大時代に私の授業を受講してくれていた教え子ですが、工藤さんとは今回が初めて。彼女には着物で踊っていただいて日本的なものに寄せてもらいつつ、逆に我々は彼女からフラメンコ的な要素をたっぷり吸収して、それらを融合した新感覚の舞台を皆さんにお届けしたいと思っています。

今回、壱太郎さんは日本舞踊家の花柳源九郎さんと共同で振付に専念されるとのことで大いに楽しみにしております。前回も《恋は魔術師》最大の山場である、悪霊を追い払うためにジプシーが火を焚いて踊る有名な〈火祭りの踊り〉の場面での、さらしを使った日本的な炎の表現がとても素晴らしかったです!

大がかりなセットはないけれど、伝統的な小道具を駆使して魅せます。元々ファリャの音楽自体がイマジネーション豊かなので、そこに新しい要素を加えて更に輝かせたい。オーケストラはピットに沈めず、何よりもオーケストラと我々ががっぷり四つに組んだ最高のステージを、フェニーチェ堺のお客さんにも堪能していただくつもりです。

なるほど、オーケストラ・アンサンブル金沢もまた“主役”ということですね。

そうです! 能舞台も音楽の部分を担う「囃子方」がいることで成り立っています。笛はこの方向から、鼓は下から、大鼓は上から…と全部のベクトルがぴったりとハマるように設定されているので、「囃子方」がお客さんから見えていることが重要なのです。だからオーケストラが存在感たっぷりで舞台上にいるのは私としては大歓迎。邦楽の世界には指揮者のような人がいないので、いつもは各々が舞台に集中することで成り立っているのですが、ここではマエストロとしっかり息を合わせて進行させて行きたい。情熱的なスパニッシュ音楽と伝統芸能が誇る“幽玄”の世界が織りなす、誰も観たことのない音楽劇にどうぞご期待ください。お待ちしております。

◎Interview&Text/東端哲也
◎Photo/安田慎一



12/13 SATURDAY
野村萬斎 with オーケストラ・アンサンブル金沢
ファリャ「恋は魔術師」

■会場/フェニーチェ堺 大ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 S¥6,500 A¥4,800 B¥3,800
■お問合せ/フェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)TEL.072-223-1000