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「長渕剛」スペシャルインタビュー取材日:2025.07.14
この秋、全国4都市でのアリーナツアーを控えた長渕剛のインタビューが実現。
多くのオーディエンスを熱狂させるステージのクリエイティブ、
詩魂を込めた歌づくり、若いアーティストへの思いなど、
さまざまに語られた真摯なメッセージから、“長渕剛の今”を届けます。
全国ホールツアーが7月にファイナルを迎えましたね。
延べ7万人の方とお会いしたわけですけど、これまでにない熱狂でした。ツアータイトルにもなった「HOPE」は、怒りを源泉とした歌です。世の中みんな、怒りを内包しているという感覚がすごくあったので。みんなで拳を上げて歌うというシンプルな図式ができました。照明などの演出も、観客の熱狂に拍車をかけたと思っています。
ステージの演出も長渕さんが手がけていらっしゃるのですか?
全部やります。僕は新人の頃から。もちろんスタッフの方もいらっしゃるんだけど、観客が求めるものへの認識に相違があると、歌に込めている思いが届かない場合があるんです。だから、プランナーの土台をもとにディスカッションしながら一緒に創ります。照明だけじゃなく、PA、モニター、大道具…各部門のチーフたちが関わり合って、演出コンセプトからズレていないか確認しながら進めていくんです。分業制じゃないんですよ、うちは。感性は分業じゃできないので。僕のチームには誇りを持っています。
ステージの演出は、歌のメッセージとリンクさせてプランニングされるのでしょうか。
そうですね。根幹にあるのは「この歌を一体どう届けるのか」ということで、演出家やミュージシャンのエゴは一切許さない。「見せる、聴かせる、感動させる」という要素は、来てくれたお客さんがジェットコースターに乗っているように揺さぶられて飽きないようにするためにあります。そして最終的に会場から出たときに、みんなが自分の人生を肯定して、「よかったな。明日も頑張るぞ」という気持ちになってほしい。だから客の顔を見ればわかりますよね、僕たちの演出が外れてるか、間違ってないかっていうのは。
長渕さんのステージに観客が求めているのは、どんなことですか?
現実逃避ですね。「日常から解放してくれ、長渕」って。ネガティブな要素ばっかりの日常から解き放って、俺たちを気分良くさせてくれと。それでも頑張って生きてるってことを肯定してくれねえか、という、なんか集会のような気がします。俺もそう。そのために歌を作り、照明があり、音響がある…という感じです。僕が観客に求めるのは、「正直になろうぜ」ってこと。全部あけっぴろげに自分を解放して、何も残ってないぐらいに燃焼してこの会場を出ていってくれ、と。だから僕は、2時間以上のステージをやりきった後、楽屋に帰らないで、しばらく客を見ます。その背中に、もしも不満があったら、また出ていくときありますから。「おーい、待ってろ、やるぞ!」って(笑)。不満そうなあいつをもう一回振り向かせて、拳を上げて「よーし」っつって帰してやるぞっていう。みんな高いお金を払ってシートを獲得するわけですから、そこに嘘はなかったという生き方をしてきました。
配信サービスが主流になった今、生で音楽を聴くことの価値が高まっていると感じています。ライブを長年続けてこられて、何か変化を感じますか?
ライブをやり始めて47年。もうすぐ50年経つと思うと、自分でもゾッとします。その変遷を見ても、基本的なライブの価値観って変わらないです。変わるはずがないんですよ、人の呼吸とか肌のぬくもりとか。声帯が震えて波動となって、歌は人の耳から心に忍び込みますから。それは当然、デジタルでは表現できない。そういった意味では、エンターテインメントの世界で演者に求められるものは厳しくなりますよね。数年で消えてしまう演者は多いです。もったいないですよね。彼らを取り巻く環境も、例えば反骨の魂とか、そういうものを良しとして育てていくムードが希薄なんです。昔は、次の世代に芽吹いてくる反骨の芽を摘まないでおこうという空気が業界全体にありました。テレビ局にもラジオ局にも、そういうプロデューサーがたくさんいらっしゃって。今、そんな空気が薄くなっていることは、大きな損失だと思います。
若いミュージシャンを育てる土壌がなくなっていると。
ミュージシャンだけじゃないですけどね。日本から優れた表現者が出にくくなるんじゃないかという危機感は、すごく感じます。表現の根本は、若いときの破壊衝動なんですよ。今までの表現が気に入らないわけだから。時代の変革期において存在感を示すのは、実は大衆芸術なんです。ロックとかフォークとか。歌の持つエネルギーとか歌う人の心の中にある考え方、そういうものが変革のきっかけとなって、その後から政治がついてくる感じがします。僕は、あんまりそういうことを考えて歌を書いてきませんでしたが。振り返るとバブルの頃に「国会議事堂にしょんべんひっかけて」なんて歌ってみたりしましたけど。ラブソングは必要だけれども、アンチテーゼの歌も絶対必要です。その代わり、石を投げたら投げられますから。それを覚悟しなきゃいけない。
長渕さんの歌からは、世の中に対する問いが感じられます。
そういうものは投影していますね。生きてくなかで、苦しみとか怒りとか、——秋から始まるアリーナツアーでも、長渕さんの詩魂を体感したいです。名古屋公演は11月ですね。名古屋の思い出はいっぱいあります。20代の頃、味噌煮込みうどんの山本屋に初めて行ったときのこと。ガラガラっと引き戸を開けて暖簾くぐると土間があって、厨房からものすごい蒸気が出てるんですよ。女将さんが自分のおふくろみたいで、すごく親しみを感じて、よく通いましたね。「お母さん、うどん硬いね」「そう、うちは硬いのよ」って。僕の心の中に染み込んでる名古屋の風景と、あの女将さんの割烹着姿と、夏でも汗だくになってうどんを作ってらした店主の姿は、ずっと残ってますね。ライブはもう、一本一本が命がけです。油断のないステージをやりますんで、心して飛びかかってこい!(笑)。
◎Interview/福村明弘 ◎Text/稲葉敦子
◎Photo/安田慎一
11/15SATURDAY・16SUNDAY
「TSUYOSHI NAGABUCHI 7NIGHTS SPECIAL
in ARENA名古屋公演」
■会場/ポートメッセなごや 第1展示館
■開演/17:30
■料金(税込)/全席指定¥13,000
■お問合せ/キョードー東海 TEL.052-972-7466
(月~金12:00~18:00 土10:00~13:00 日祝休み)











