HOME > 土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」 > Vol.08 随園別館

土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」

VOL.08

新宿に随園別館という名の老舗の中華料理店がある。

合菜載帽というメニューが有名だ。お店を見渡してみると、3人以上で囲んでいるテーブルのほとんどにそれが乗っている。
簡単にいうと五目野菜炒めである。それがたっぷりの玉子焼きの帽子に覆われている。強火の中華鍋で卵液をかき回しながら手早くつくりあげられるのだろう、おたま(菜箸?)の跡が波型に綺麗に渦巻いていて、まるで一瞬で凍った波のように、躍動感あふれる玉子焼きである。
セットの中華風クレープ(北京ダックの皮のようなもの)に甜麺醤を塗り、野菜炒めをスプーンで玉子ごとすくい取り、長葱の千切りとともにくるんで食べる。
野菜のシャキシャキとクレープのもちもち。ああ、素晴らしき食感の出会い。
うっすら塩味の野菜炒めと柔らかい風味の玉子焼きには甘ーい甜麺醤がよく合うし、ときどき長葱がツンと刺激をしてくる。
この世のたいせつなものが全てつまっているような一品だ…いやほんとに。

昔よくレコーディング作業をしていた場所がこのお店の近くだった。いつも朝までこもっていたので合菜載帽を食べに行ける日は少なかったが、その代わり手土産を買ってスタジオに行ったものだ。
それはココナッツ団子。
柔らかいおもちのまわりを雪のようなココナッツフレークが覆っていて、なかには甘い黄身の餡を抱きかかえている。素朴な味だけど蒸し方が良いので極上のとろけるもちもち感。
熱々の状態で6個、パックに入れてもらって仕事に向かうと、どんなに疲れている日でもアステアのようにステップしながら新宿通りを行けるほど元気になった。
たくさんのアルバムを、この団子が支えてくれた。わたしの青春の味。

もちもち派の皆さんも東京でお食事の際は、是非いちど随園別館で合菜載帽とココナッツ団子を!