HOME > 土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」 > Vol.05 中野の「うどんや 大門」

土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」

冷凍うどんが原材料にタピオカと同じ澱粉を使うようになったのは何年前だっただろうか。それまでとは格段にもちもち感がアップした冷凍うどんを初めて食べた時、とても感動したのを覚えている。
あらかじめほぐしておいたたらことバターひとかけとともに、レンジでチンした熱々のうどんをボウルで混ぜて、ちぎった海苔や大葉を散らす。
それだけで華やかな一皿になるからちょっと嬉しい。
タピオカ冷凍うどんのもちもちは、登場したとき、確かに新食感だったと思う。お菓子のようなポップで楽しい食感。

そして本来のうどんのもちもち感はまた別のものだ。ライブで香川県に行くたびにうどん巡りをするのだが、東京に帰ってくるとあの食感や奥深いおいしさにはそうそう出会えず、しばらく「讃岐うどんロス」状態で過ごすことになる。
中野にある「うどんや大門」は、映画「UDON(うどん)」の製作スタッフとして携わっていた方が店主を務める名店。
生鮮、お惣菜、レストラン、喫茶店、薬局、書店、菓子店…この世の全てがあるような中野ブロードウェイを進んで行くと、カウンターだけの小さなお店がある。通路に面してむきだしの、壁のないお店だけど暖かい雰囲気。午前中でも人が並んで待っている。
コシと弾力があって、でもやわらかくてふっくらととけるような、とてもやさしい気持ちになれるモチモチ感なのだ。
餅の天ぷらと金時豆の天ぷらも、衣が繊細で、やさしいお味。
大門という名前は同じ場所で長く営業していたお店『中華大門』から、敬意を以って受け継いたとここと。そういうお人柄があらわれたような、真っ直ぐでやさしいうどん。
お店を出たあとは、日光浴をしたあとのような気分になれる。