HOME > 土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」 > Vol.04 金花堂はや川の“羽二重くるみ”

土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」

「カワがついているんですよ、カワ。なんていうのかな…こう…うーん…カワ?がついていて、ほんとにうまいんですよ。あれは…なんて言えばいいんだろうね」「うーん…そうだなぁ…カワ、なんだよね…羽二重餅に小麦粉のカワがついてる」
地元の方達が一生懸命に説明してくれていた。どうやら、カワつきの羽二重餅があるらしい。
20年前、初めて福井県に行った時のことだった。新譜のプロモーションだったので、ラジオやテレビに出て話したり、雑誌の取材を受けた。慣れていなかった私はとても緊張して、終わった後は反省ばかりしていた。
その日はとあるラジオ番組のなかで何気なく好きな食べ物を聞かれて、それが唯一即答できた質問だった。「もちもちしたものです」。生き生きとしていたのだろう。スタッフの方が、それなら是非にとオススメしてくれたのがその「カワつきの羽二重餅」だった。名前も正体も未知のX餅!
帰りの電車の時間はギリギリだったが、駅のそばにあるお店までスタッフの方が一緒に走ってくれた。パックに入ったものを2つほど買い、無事帰路についた。

「カワ」の正体は、薄くてしっとりしたシュー生地で、柔らかい羽二重餅がそれをサンドしているところを、さらに両側からシュー生地がサンド。上からカワ、餅、カワ、餅、カワ、というあんばいである。そしてお餅の中にはクラッシュされたくるみ。
ともすれば流れ出しそうなほどにやわらかい羽二重、それをシュー生地のかすかな歯応えが挟むことで弾力が増し、そしてときどき思いがけない感じでクルミのアクセントに出会う。食感が奥深い。素朴で優しい味に、仕事での緊張がゆるゆるとほどけていったのを覚えている。
それから福井に行くときには毎回買って帰る。食べるたびに、若い日の緊張感と福井の方達の優しさを思い出す。
両親にも評判で、最近ネット通販が出来ることを母から聞き、先日取り寄せてみた。「金花堂はや川“羽二重くるみ”」で検索すると出てくる。

今回ふと思いつきで、アレンジも。よく冷やした羽二重くるみをバターで軽く焼くのだ。ささっと表面を焼き付けて、中のお餅が溶け出さないように。
これが大正解で、シュー生地の風味がもっと華やかになり、塩分が上品な甘さを引き立てる。勿論そのままでたいへん美味しいが、ステイホームならではのアレンジ、ぜひお試しを。