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世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

第十九回「正しいプライドのかざし方」

「あいつプライド高いよね」などと、ネガティブに使われがちな「プライド」ですが、本来は「自負心」を意味する言葉。
どんな状況にあっても「信念を信じる力」が自負心とすれば、プライド=エゴをふりかざす事ではないはず。本物のプライドは、時にはリスクも引き受けます。
「助六」は、江戸一番のイケメン・助六が、吉原遊郭で 大暴れする話。恋人の花魁・揚巻や、恋敵の老人・髭の意休など、多彩な登場人物の織りなす、ゴージャスな「大江戸けんか祭り」です。この芝居が素敵なのは、出前持ちから通りすがりの田舎侍にいたるまで、登場人物がみな、プライドを持って生き生きとしているところです。
助六は実は曽我五郎という若侍で、お家再興に必要な友切丸という宝刀を探している設定。往来でけんかを吹っかけては、相手に刀を抜かせて確かめています。
強くてイケメンの助六は、吉原でモテモテ。でも自信にあふれたその勢いは、命がけのミッションと背中合わせでもあります。
そんな助六を応援する揚巻は、他の遊女とは別格の存在。美しさと気品にあふれた彼女が、生まれて初めて悪口を言う場面は有名です。助六をあげつらう意休に対する「悪態」の台詞の素晴らしさ。
「深いと浅いが間夫と客。間夫がなければ女郎は闇。暗がりで見てもお前と助六さん、取り違えていいものかいなあ」と高笑い。
吉原ナンバーワンのプライ ドを持つ花魁のタンカも、助六を想う気持が言わせたもので、意休に斬られるリスクも覚悟の上です。斬られないまでも、吉原にとって大事なお客を失う事にもなりかねません。
その意休にしても、揚巻に振られ通しなのを承知で、吉原に通って来ています。無頼漢の親分ながら、教養も知性もあり、助六の正体を知りつつ、時にはたしなめる存在。揚巻に無視されようが、他の遊女にからかわれおうが、「顔をつぶされる」リスクも承知で泰然と構えた様子は、一番懐が深いと言えます。
正しいプライドとは、リス クをも怖れない矜持を指すのでしょう。