HOME > Web 限定インタビュー > 「タニノ クロウ」インタビュー

庭劇団ペニノが三重に初登場。劇場内に建てられた“お堂”で繰り広げられる不思議な儀式に観客も参加しているうちに、いつしかその世界に取り込まれ、没入していく。そんな異次元の参加型音楽劇「蛸入道 忘却ノ儀」を体感する日が、いよいよ迫ってきました。まったく新しい劇体験で、主宰のタニノクロウがめざすこととはー。

「蛸入道 忘却ノ儀」での劇体験は、実際に参加してみないと想像しづらいものですね。

そうかもしれません。ストーリーもなく決められた台詞もない中で、俳優たちはキャラクターを演じることなく、自分自身としてその空間にいます。そして、念仏を唱えながら “儀式”を執りおこなうんです。観客の皆さんにも、あらかじめ置いておいた楽器を自由に手に取って奏でながら、儀式に参加してもらいます。どんな音が鳴るのか俳優たちはもちろんわかりませんし、観客がお堂を囲むように居並び全方位から見られている状態でパフォーマンスを続けなければならない。そこで彼らが何をどう体感するのか。それを求めて作ったのが、この作品です。例えば、台詞を間違えないようにとか、音がズレないようにとか、パフォーマンスをする上で守るべき優先順位がありますよね。それを全部なくして、その先に行く…俳優たちが自意識から脱却するための儀式を見せたいんです。

初演、再演でその経験をして、俳優さんたちに変化はありましたか?

「変わった」という人は何人かいますよ。舞台上での俳優の理想的な状態は、物事を自在に見ながら想像力豊かでいられることだと思います。どういうことかを説明するのは難しいのですが…。以前、舞台上に赤ん坊が出てくる作品を観たときに、どうしても赤ちゃんに目が行ってしまうということがありました。別の作品で演出家が役者として出てきたときも、なぜかその人のことを目で追ってしまった。一方は、それが演劇なのかさえわかっていない人、つまり作品に対する情報が圧倒的に少ない人。もう一方は、膨大な情報を持っている人です。両極端ですが、舞台上で観客の目を引き付けるのは、そういう存在なんだと思います。では、俳優はどうするか。当然ですが情報量ゼロというのはあり得ません。そのプロダクション、関わっている人、稽古中の昼飯…なんでもいいのですが、自分を取り巻くあらゆるものに対して好奇心と想像力を発揮して世界を作っていく。一見、自分にはまったく関係ないことでも、「あるんだろう」と仮説を立てるという作業を、俳優は稽古の段階でおこないます。それを踏まえ、情報をできるだけたくさん持った状態で舞台にいたほうがいいと僕は思っているんです。そういう状態が、決められた台詞や動きを超え自在に物事を見られる、舞台上での理想的な俳優のあり方なのではないかと。ゼロと無限が同居するという、仏教思想の「空」に通ずる状態かもしれません。


撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT事務局

そういう状態に観客も取り込まれていくのですね。昨年、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2019」で上演された際には、一緒にお経を唱える人もいたそうですが。

上演する場所によってムードがまったく変わる作品だと思います。何が起こるかわかりませんし。京都の場合は国際演劇祭でしたから、お客さんの空気も独特でした。すごくノリノリの人もいたし…。今回も、お客さんの反応がとても楽しみです。俳優と観客が影響し合ってできる作品、しかも、そのことを観客が感じながらその場にいられる作品ですから、面白いんじゃないかな。とても音楽的に作られている作品ですし、聴き応え、見応えもあると思います。単純に楽しんでもらいたいです。

庭劇団ペニノは、三重県初登場です。

三重県文化会館のことは、東京の演劇人の間でも話題になっていますよ。各地の小劇場やフリーシーンの作品をこんなに頻繁に上演している公共ホールは、あまりないと思います。
やっぱり、そういう土壌のあるところでやりたいですよね。土地柄や箱の環境というよりも、そこで働いている人や観に来てくれる人が醸し出すものだと思うのですが。今回は良い機会をいただきました。

ペニノもそうですが、今の演劇シーンでは所属の俳優を持たずユニットスタイルで作品を作る劇団が多いですね。

ほとんどそうじゃないですか?好きなときに好きな人たちを集めてやればいいと思っています。今は、人が集まるのも情報を集めるのも簡単ですし。家を買うか賃貸を続けるか、みたいな差だと思います。演劇なんて、いつ転覆するかわからないことをやっているわけですから、賃貸にしておいたほうがいいんじゃないかな、と(笑)。


3/7 SATURDAY 3/8 SUNDAY
庭劇団ペニノ「蛸入道 忘却ノ儀」
チケット発売中
◎ 作・演出/タニノクロウ
◎ 出演/木下 出、島田桃依、永濱佑子、西田夏奈子、日高ボブ美、森 準人、森山冬子、山田伊玖磨
■ 会場/三重県文化会館 小ホール
■ 開演/3月7日(土)14:00、19:00 3月8日(日)14:00
■料金(税込)/
全席指定(整理番号付)前売 一般 ¥2,800 高校生以下(要証明)¥1,000
当日 一般 ¥3,100 高校生以下(要証明)¥1,300
■お問合せ/三重県文化会館 TEL.059-233-1100
※未就学児入場不可