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ウィーン国立歌劇場バレエ団、ベルリン国立バレエ団、ハンガリー国立バレエ団など、ヨーロッパの名立たるバレエ団で活躍した世界的プリンシパル・中村祥子。現在はKバレエ カンパニーのゲスト・プリンシパルとして、卓越した技術としなやかな表現で日本のファンを魅了しています。この秋、熊川哲也版「ロミオとジュリエット」で名古屋に登場。ドラマティック・バレエの最高傑作で、今の彼女が体現するヒロインに期待が高まります。

ジュリエットはこれまで何度も踊っていらっしゃるかと思いますが。

そんなことないんです。ウィーン国立歌劇場バレエ団にいた頃、ジョン・クランコ版を踊るはずだったのですが、公演前日に怪我をして踊れなくなったということがあって。その後、改めてチャンスをいただけたのが、9年前のKバレエ カンパニーの熊川版「ロミオとジュリエット」の再演です。そのとき初めてジュリエットを踊りました。


初役のときはどのように準備をされましたか?

ウィーンで踊っていたときにも感じていたことですが、私は身長が高いこともあって、どうしてもジュリエットという少女になり切れないという思いがあって。Kバレエ カンパニーで踊ることになったとき、そのことを熊川ディレクターに相談したことがあるんです。そうしたら、「それは祥子が決めることじゃない。観客が決めることだ」とスパッと言われました。私のジュリエットを見て、お客様が「あ、ジュリエットだ」と思うかどうかが大切で、「祥子自身が今、ここで決めてしまったら、もうそこで終わる」と。その言葉をいただいてからは、なるべく鏡の自分を意識するのではなく、展開ごとに自分がどう感じたかとか、ロミオから受けたことをどう表現するかに重点を置くようになりました。自分の感情をそのまま受け入れ、自分がどう見えているかというのは考えなくなりましたね。

前回、Kバレエ カンパニーでタイトルロールを踊られた「クレオパトラ」とは全く異なる役柄ですね。

クレオパトラを踊ってからは、観てくださった皆さんにその印象が強く残っているみたいです。自分自身もそのイメージを捨て切れない部分があるのですが、そこを崩すことが必要ですね。クレオパトラでピッと線が入ったものを緩める必要があるのかなと思います。ジュリエットは14歳の少女ですから幼さも出さなくてはなりませんし。それから大事なのは目線ですね。ロミオと恋に落ちるなど、各場面でいろいろなことが瞬時に起こってしまうので、目で語ることが重要になってくると思います。

例えば歌舞伎などでは、娘役を大ベテランの名優が演じます。年齢を重ねたからこそ若い役をより巧みに演じられるということがあるのでしょうか。

そう思います。ジュリエットも、ウィーンで最初にチャンスをもらったときが年齢的には一番近かったんです。私自身、ダンサーとしてまだそれほど経験がないという若さでした。稽古の間もいろんなことを悩みましたし、最終的に怪我をして「自分にはまだ早かったんだな」と、後から思いました。その後、Kバレエ カンパニーからお話を頂いて熊川ディレクターといろいろお話ししながら挑戦させてもらって。でも、そのときもまだちょっと何かがやり切れていない感じがしていたんです。その後、出産を経験してから踊ったときに、一番ジュリエットを感じられた気がしました。不思議ですよね。自分と役柄の年齢が一番離れているときに踊ったのに。若い頃、最初に役をもらったときにはジュリエットになり切れずあれだけ悩んでいたのに、なぜだろうと思いますけど。表現においては、やっぱり経験って大事なんだと思います。それは役柄と同じような経験ということではなくて、人として多くのことを経験した上で出てくる表現というものがあって、それを自然に表せるようになったのかもしれません。形として出すのではなくて、ジュリエットの気持ちが自然にわかるようになったというか。ベルリンでは観てくださった方たちからも「また祥子のジュリエットが見たい」と言っていただけました。

ロミオ役の遅沢佑介さんとは前回もコンビを組んでいらっしゃいます。

遅沢君には、本当に安心感があります。多くの作品を一緒に踊ってきたこともありますが、私がどんな表現をしたいかとか、どう動きたいかというのを瞬時にキャッチしてくれます。言葉で伝えなくても、サッと体を動かしてくれたり…。だから、私自身もとても自由に動けます。今回、9年という時間を経て一緒に踊るわけですが、彼もまた9年分のいろいろな経験をしてきていると思うので、とても楽しみですね。リハーサルでも、いざ「ロミジュリ」の世界に入ったら、「けっこうスッと入れるね!」っていう感じはありました(笑)。彼は普段はもの静かな人ですが、ロミオの若さをいきいきと表現しています。やっぱり好きなんじゃないかな。ロミオのような役は、ダンサーにとって魅力的なんだと思います。

「ロミオとジュリエット」というバレエ作品の魅力は、どこにありますか?

音楽といいドラマといい、見どころがあり過ぎて…。加えて、熊川版の魅力は、やはり踊りにあると思います。しかも、ここまで踊りを入れても自然と感情につながるという。バレエダンサーの力も見せつつ、役柄の感情や物語をしっかりつかんで感動を作り上げているんですよね。観る人にとっては、もう目がいくつあっても足りないような満足感のある作品になっていると思います。

物語の世界に観客を引き込むために大切なのは、どんなことでしょうか。

どの作品もそうですが、バレエを踊っていることを感じさせないようにすることを心がけています。より自然に、その舞台の上で生きるみたいな感じで。バレエのポーズにとらわれてしまうと、世界が違って見えてしまいます。「あ、バレエを踊っているんだ」と思われてしまうんですね。でも、人の自然な動きを意識することで、その物語がその場で本当に起きているように見えるんじゃないかなって。だから、自然体で自分がどう感じてどう動くかということに気をつけながら…もちろんポジションを決めるのは大事ですが、それをいかに自然につなげられるかを気にしています。

今回の全国ツアーでは、名古屋と広島で中村さんのジュリエットを観ることができます。東海エリアのファンにとっては嬉しいことです。

クレオパトラを踊った後ですから、皆さんには、ダンサーというのはこんな風にいろいろな感情や表現を日々、追求しているんだという面白さを感じていただきたいですね。今シーズンは、私にとって新しいレパートリーが続いているんです。毎年毎年、挑戦ですね。この数年は毎年「ダンサーとして、今が一番いいときですね」と言われるんですよ(笑)、なぜか…。でも、自分ではわからない。その時々で来たことに挑戦して、そこで自分のベストを出して、それに対する意見をいただく。それだけです。「ここが私のベストです」と言い切ったときが、終わりのときかもしれません。

新しい挑戦が、ダンサーとしての一番のモチベーションになるのですね。

それに、舞台を踏めば踏むほどモチベーションは上がりますね。これだけの人が喜んでくれるって、やっぱり人生の中でないんじゃないかと思ってしまう。それだけ特別な場所に立てているんだという気持ちが、自分をさらに押し上げてくれるというか…。ここから離れられないというか、もっとできるんじゃないかなと思っちゃう。そんな自分が恐ろしいですね(笑)。


10/18 THURSDAY
熊川哲也 Kバレエ カンパニー
「ロミオとジュリエット」

チケット発売中
◎芸術監督/熊川哲也
◎出演/ジュリエット:中村祥子、ロミオ:遅沢佑介、マキューシオ:石橋奨也、
ベンヴォーリオ:益子 倭、ティボルト:杉野 慧、ロザライン:戸田梨紗子、パリス:宮尾俊太郎
■会場/日本特殊陶業市民会館フォレストホール
■開演/18:30
■料金(税込)/S¥16,000 A¥13,000 B¥10,000
■お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL.052-241-8118(平日10:00〜18:00)
※未就学児入場不可