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「前橋汀子」Web 限定インタビュー
取材日:2016.11.01


17歳、まだ冷戦時代のソビエト連邦に単独留学、
その後、ニューヨーク・ジュリアード音楽院にも行くなど、
大変な軌跡を描いてきたヴァイオリニスト、前橋汀子。
50年以上演奏を続けてきた彼女が恒例としている
誰でも気軽に聴けるコンサートが開催される。

この「ヴァイオリン・デイライト・コンサート」は、クラシックビギナーの方にも楽しんでもらえるようなコンサートとして、プログラムには気軽に聴けるヴァイオリンの名曲の小品を並べ、リースナブルな料金で開催しています。このようなコンサートを開催するにいたったきっかけを教えて頂けますか?

私、来年行う演奏会で55周年になるんですよ。ヴァイオリン弾きとして、50年以上弾いてきたなかで感じたことがあるんです。それは日本ではヴァイオリンの生の音をコンサートホールで聴いたことがない人が大勢いるということ。50年前に比べてクラシックは大変盛んになりましたし、こんなにも1日の中でコンサートが重なるなんて日本ぐらいですよ!でもやはりいろいろな事情で足を運ぶ機会がない人が多い。10年ほど前、そんな人たちに対して今の私が何が出来るかと考えたんです。ひとりでも多くの方にヴァイオリンを聴く機会を作れないかっていうのが最初の思いでした。それにはどうしたらいいかと考えたときに、まず条件を3つ決めました。ひとつめは開催日。土日か祝日の午後。夜はご家庭の都合とかいろんな意味で出にくい人もいるじゃないですか。だから昼間がよかったんです。次は場所ですが、それは東京で開催する場合はサントリーホールがいいだろうと。最後は料金。CD1枚分の3000円に。それから消費税があがろうと上げてないですからね(笑)。最初立ち上げたときから、ありがたいことに毎回満席で。何年か続いたときに、これと同じことを名古屋でもやりたいなと思ったんです。愛知では今回で5回目となります。

プログラムはどのような視点で決めてるんでしょうか?

ヴァイオリン演奏を様々な形で聴いて頂きたいと思ってるんです。長く続いてきたクラシックの歴史の中で発見してきた、ヴァイオリンという楽器のいろんな面を2時間で楽しんで頂けたらというのが私の根本的な考えです。少なくとも去年とは同じ曲にはならないようにはしています。こういう音も出せるのか、こんな表現もできるのかというようなことを、午後のひと時にちょっとでも感じてもらえたらと思っております。

名曲の中からというと、ここまで公演回数を数えると被りなど含めて、選ぶのは大変そうですよね。

一般に知られている曲が、イコール軽いということではないと思ってるんです。よく知られてる曲で原曲がヴァイオリンというのも多いんですよ。例えば、パガニーニの『ラ・カンパネラ』はリスト編曲のピアノの方が有名になっちゃいましたけど、本当はヴァイオリンの曲なんです。しかもヴァイオリン・コンチェルトの第3楽章なんですよ。ヴァイオリンの魅力は、ベートーヴェンだ、バッハだということだけじゃないんです。ヴァイオリンのために書かれた、ヴァイオリンの元の形をできるだけ損なわないで表現できる曲を組み合わせて演奏するようにしています。

今回のプログラムについてはいかがですか?

全部自分が好きな曲なんです。そして自分が弾きたい曲ばかり。あえていうと、前半のバッハの『シャコンヌ』でしょうか。バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』のパルティータ第2番の終曲なんですね。この無伴奏の6曲は20年以上前に一度録音して、それなりの評価も得たものなんですけど、今の自分が弾いたらどうなるだろうともう1回取り組んでるんです。自分が若いときに弾いたときとはまた違う角度で、今だからこそ見えてくることもたくさんあるだろうと思ってるんです。バッハの曲というのは、コンサートで弾く機会がなくても、いつも自分の身近にあるんです。ほとんどのヴァイオリンの曲はピアノの伴奏がないと音楽として成り立たないものなんですが、バッハの無伴奏はひとりで全ての責任を負うというか。ピアニストのせいにもできないですしね(笑)。

前橋さんほどの人でも未だに発見があるというのはすごいことですね。

あるんですよね。クラシックがポップスなどと1番違うのは、楽譜に忠実だということ。ジャズの即興演奏やポップスの世界だと、変えることも面白みになるんでしょうけど、それができない。年を重ねるに従って、作曲家の思いが見えてくる部分もありますし、若い頃のように体が動かなくなる部分もありますよね。もちろん出来るところまでは動けるようなトレーニングはしてますけど、限られた時間で何を弾くか。それは本当に実感しております。

◎Interview&Text/小坂井友美


11/27 WEDNESDAY
前橋汀子
ヴァイオリン・デイライト・コンサート

チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/13:30
■料金(税込)/全席指定 ¥3,000
■お問合せ/@FM 業務推進・事業部 TEL052-263-5141(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可