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「樫本大進」Web 限定インタビュー
取材日:2016.11.25


世界最高峰のオーケストラ・メンバーが組織する室内楽アンサンブルの中で、
最も長い歴史と伝統を持つ団体のひとつ。
ヴィルトゥオーゾ集団「ベルリン・フィル八重奏団」が奏でる、
不動のレパートリーを聴く歓び。

フリッツ・クライスラー、ロン=ティボーという権威ある2大コンクールでのダブル優勝からちょうど20年。世界のトップ・ヴァイオリニストとして活躍を続けている樫本さんにとって、2016年はコンスタンチン・リフシッツさん(ピアノ)とのデュオに始まり、コンサート・マスターを務めているベルリン・フィルの公演、トリオ・コンサート、ドイツ・カンマーフィル(パーヴォ・ヤルヴィ指揮)との共演など、様々な演奏で日本中を駆け抜けた充実の年だったのではないでしょうか。

僕としては特別に“節目”を意識していたわけではなく、いつもと同じ気持ちだったのですが、日本で本当にたくさんの演奏ができる機会を持てたことを嬉しく思っています…そのどれもが自分にとって心からやりたいものばかりだったので。特にCDでのヴァイオリン・ソナタ全集に始まり、今年も室内楽から協奏曲とベートーヴェンをやり尽くしたという充実感があります。


そんな日本における「DAISHIN YEAR!! 2016-17」の締めくくりにふさわしい華やかな企画が、第1ヴァイオリンを務める「ベルリン・フィル八重奏団」公演ですね。

結成から80年以上という、長い歴史を誇る室内楽アンサンブルですが、2013年に僕とヴィオラのアミハイ・グロス、ホルンのシュテファン・ドール、ファゴットのモル・ビロンが加わったことでメンバーを一新。伝統のエッセンスを守りつつ、今までとは違う新しい色を出して行きたい…と言いたいところですが(笑)、実は先輩たちと比べてどうこうなんて、8人のメンバーの誰も意識してはいないと思う。恐らくいちばん古株のヴェンツェル・フックス(クラリネット)でさえも。それよりも今の自分たちでどうベストを尽くそうか、考えるのはそっちですね。いつもオーケストラで一緒に演奏している気心の知れた8人だからこそできる、絶妙な“呼吸”と親密な“会話”を最大限、強みにしたい。


今回は不動のレパートリーであるシューベルトの「八重奏曲」を新メンバーになって、初めて名古屋で演奏されるということで地元のクラシック・ファンもとても楽しみにしています。

1928年にベルリン・フィルの8人のメンバーがシューベルトの「オクテット(八重奏曲)」を演奏するために集まったのが、このアンサンブルの始まりとされているので、やはり特別な曲ですね。当時のメンバーの気持ちを忘れないように弾き続けたいと思いますし、作品としても最高の一曲なのです。6つの楽章からなる長大な曲で演奏には1時間ほど要するのですが、それがあっという間に感じられます。


ドヴォルザークの「5つのバガテル」は元々2つのヴァイオリン、チェロ、そしてハーモニウム(リード・オルガン)のために書かれた曲の八重奏版です。

普通の編曲パターンだと大編成のものを小さくするのが当たり前だけれど、この曲は逆。だからとても面白いですよ。ハーモニウムはマーラーもよく使っていた楽器で、独特の風格がある。小さいけれど通常の編曲ではオーケストラの代わりを務める楽器として用いられることも多く、今回はそれを意識して置き換えているのだと思います。シュテファン・ドールが一緒に仕事をしたことがあるドイツのクラリネット奏者による編曲で、今回のツアーに合わせて依頼したもの。もちろん八重奏版としては日本初演になります。


八重奏版に置き換えたときに、いちばんたいへんなパートはどちらですか?

それは簡単な質問で、そう訊かれたときはいつも第1ヴァイオリンです! と答えるようにしています(笑)。どの曲を演奏してもいつもいちばん難しい。特に「5つのバガテル」はオリジナル版の方でもまだ演奏したことがありませんから。でも、どのメンバーも自分がいちばんたいへんだって答えると思いますよ。

ニールセンの「軽快なセレナード」は管楽器とチェロ、コントラバスによる五重奏曲で、ヴァイオリンとヴィオラは参加しないんですね。

そうです、五重奏がオリジナル。本当に素晴らしい曲なのですが特殊な編成なので演奏する機会は少なく、僕らのような編成が母体にあるからこそできる。ロンドン・ツアーで弾いた時にも凄く良かったので、ぜひ日本に持ってきて皆さんにも披露したいと思ったんです…自分は弾かないのに(笑)。どうかお楽しみに!

皆さん、ベルリン・フィルでの演奏はもちろんのこと、それぞれソロでも世界中で活躍されています。いつもどういうタイミングで「八重奏団」として集まっているんですか?

だいたい、オーケストラのリハーサルの空き時間に集まって、さあやろうかっていうパターンが多いですね。フリーの時に集まることもたまにはありますが、とりあえずオーケストラ仕事の時はみんなの顔が揃っているので。ベルリン・フィルの数あるアンサンブルのなかでも、いちばん練習している方だと思いますよ。それは僕がしつこく誘うからということもありますが、みんな基本的にリハーサル大好きな人たちなのです。そしてこの「八重奏団」の活動を愛している。みんな自分たちのアンサンブルがベストだと思っていますから!

◎Interview&Text/東端哲也




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ベルリン・フィル八重奏団
チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/18:45
■料金(税込)/S¥9,000 A¥8,000 B¥7,000 C¥6,000 D¥5,000 学生¥2,500
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-588-4477(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可