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「伊藤 敬」Web 限定インタビュー
取材日:2017.03.28


名古屋演劇界の重鎮にして“アマチン”の愛称でも親しまれる天野鎮雄を代表に
当地の演劇人たちが実行委員会を立ち上げておくる「戦争を語り継ぐ演劇公演」。
そのシリーズ最新作2本が、4月・5月に連続公演される。
2作品で90人以上が関わる大所帯の船頭役は、ベテラン演出家の伊藤敬だ。
幼少時代、第二次世界大戦を経験している伊藤に、いま抱えている想いを尋ねた。

企画の立ち上げやシリーズ化の経緯を教えてください。

第1弾に当たる作品「テミスの剣」は2013年に初演したんですが、その時はシリーズなんて考えていませんでした。ただ、“戦争の時に生きた人たち”、つまりは“戦争で死んだ人たち”に、私は強い愛着があり、彼らを語るものとして演劇を上演したかったんです。すると、想像もしていなかったような好評をいただき、翌年には再演も実現しました。同時に「もっと語ってほしい」というお声もいただいたことから、2014年に「戦争を語り継ぐ演劇公演」という名称で正式にシリーズ化して、第2弾「てぃんさぐの花」を発表したんです。

題材はどのように選んでいらっしゃるのですか。

第1弾を発表以降、お客様や周囲の方々から「こんな話もある、あんな話もある」と、様々な戦争体験や情報が私たちのもとに届くようになったんです。語り継ぐことは、まだまだいっぱいあるということなんですよね。そういった中から、広く共感を得られるもの、ドラマとして成立するものを意識して選んでいます。


第3弾「噂」では、日本三景のひとつとして名高い「天橋立」の知られざるエピソードが明かされますね。

宮津町長だった三井長右衛門(みい・ちょうえもん)という人物を主人公に、戦時下に起きた天橋立切断の危機に迫っています。命懸けで政府との交渉にあたった長右衛門は結果として天橋立を守れたものの、あらぬ誤解から“非国民”と噂されるようになるんです。しかも軍事機密法に抵触する問題だったため、ことの真相が明らかにされることはなかった。今に至るまで証拠が全く残されていないので、この作品はご遺族や近親者の方々の伝聞などを基に作り上げました。


そして第4弾「約束」は、満州開拓義勇隊のお話です。

この題材は、第2弾に出演してくれた俳優からの持ち込みなんですよ。勇んで大陸に乗り込んだはいいが、結局、国に見捨てられた人々を描いています。「噂」と「約束」の2本は、全くタッチの違う芝居。「噂」は夫婦の関係を軸に内面表現を重視している一方、「約束」はサスペンスタッチというのかな。次々と事が展開していく中で、いったい何があったのかというところに主眼を置いています。

お子さんもたくさん出演されますね。

今回は東文化小劇場からの要望で、オーディションを行い、市民参加のスタイルをとっています。だから公演日も、なるべく日曜や祝日にしているんですよ。大人も含め、参加してもらうんだったら見せ場も作ってあげたくなったり、脚本にも影響していますね(苦笑) 。連続公演は稽古もほぼ並行して進みますし、演出家にはハードではないかと……。

確かに、1+1の労力は2じゃなかった。体力面も精神面も合わせて、倍の4ぐらいに感じていますよ。でも、私ももう82歳。急がなければいけない。先々のスケジュールは保証できないんです。それで、去年の8月ぐらいから8カ月以上、キャスト&スタッフに支えられて稽古を重ねてきました。そもそも脚本にも、ほぼ2年かかっているんですよ。事実に基づき、しっかり取材をした上で制作することを徹底しているためです。事実確認はもちろん、ご遺族への配慮から脚本チェックもしていただくと、さらに時間がかかる。その分、説得力のある舞台を作ってこられたのかなと。今回も、せっかくだったら関わる人すべてが納得のいくものにしたいですよ。

あらためて、伊藤さんを駆り立てている想いは何なのでしょう?

文字どおり“戦争を語り継ぐ”という想いです。戦争体験者は、今の考え方で言えば“悪いこと”をしたので、多くの人が言いたがらないし、実際しゃべらずに現在まで来てしまった。私なんかも子どもの頃は、殴られても当たり前の教育、殺すのが良いことのような思想のもとに育ちました。そうしたら新しい時代が来てしまった。ほとんどの人は戦争について喋らないまま逝ってしまったけれど、それではいかんのじゃないかと思うんです。今の常識で良いとか悪いとかではなく、事実はこういうことだったんだということを伝えておきたいんです。

そこには、不穏な法案などが成立する現代日本へのメッセージもありますか。

いや、政治やイデオロギーのために演劇をやる気は毛頭ないですね。それは観客が自由に考えればいいこと。私たちは“演劇”というものをやるだけ。芝居そのものがカタルシスになる、心を洗うものになればいいだけです。今回は本当に良い出演者が揃ったんですけど、自分から出たいと言ってくれた俳優もいて、嬉しいことですよね。引退なんて考えてちゃいかんなと(笑)。こういう大きい演劇をプロデュースしたり、語ったりできる演劇人もほとんどいなくなってきた昨今、こんな場を得られたからには、奮起しないわけにいかないですよ!

◎Interview&Text/小島祐未子




東文化小劇場セレクトシリーズ
戦争を語り継ぐ演劇公演


4/27THURSDAY~30SUNDAY
第3弾「噂」

5/4 THURSDAY~5/7 SUNDAY
第4弾「約束」
チケット発売中
■会場/東文化小劇場
■開演/4月27日(木) 4月28日(日) 5月4日(木) 5月5日(金) 15:00
4月29日(土) 4月30日(日) 5月6日(土) 5月7日(日) 11:00、15:00
■料金(税込)/日時指定・全席自由 (前売・当日共)
2本連続公演¥5,000 各公演大人¥3,500 各公演高校生以下¥2,000
■お問合せ/東文化小劇場 TEL052-719-0430 https://www.bunka758.or.jp/scd14_top.html
■主催/戦争を語り継ぐ演劇公演上演実行委員会
公益財団法人名古屋市文化振興事業団[東文化小劇場]