HOME > 平賀マリカ 歌う生活 > 06「大人のたしなみ」
「リターン・トゥ・フォーエバー」のコンサートを聴きに先日、東京国際フォーラムに行ってきました。
このバンドは言わずとしれたピアニストのチック・コリアが30年ぶりに再結成したフュージョンバンド。ミュージシャンはオリジナルメンバーのスタンリー・クラーク(B)、レニー・ホワイト(Ds)に加え、ジャン・リュック・ポンテイ(Vl)、フランク・ギャンバレ(G)という精鋭メンバー。ちなみに私の2008年に制作した「BATUCADA」ではレニー・ホワイトに2曲ほど参加してもらいました。というわけで、レニーのドラミングも楽しみでした。
会場は満席で、今か今かとメンバーの登場を待つオーディエンスで熱気に溢れていました。会場が暗くなると、いきなり歓声とともに立ち上がる聴衆達。いったいなんだろう、と見ると、もうびっくり。なんと、メンバー達は後方サイドの会場のドアから入場してきたのです。そして、チックは前方のドアから。みんな、お客様達と握手をしたり、笑顔で声をかけたり、ステージに上がる様子まで、この目で確かめることができます。なんと人間らしい暖かさを感じるオープニングなんでしょう。30年前のその当時は、全員がとんがっていて、私にとって、人間というよりも、神に近いくらいのカリスマ性があり、本当に近くに寄る事なんてできない人達、の風情でした。
さて、彼らの演奏する音楽は本当に素晴らしく、30年経っても色褪せる事のない、それどころか、ますます艶っぽくて、キャリアを感じさせる安定したかっこよさに魅了されました。チック・コリアは大人の渋さが加わり、もう、本当に男の人って、ずるい〜、年齢を重ねても内側から溢れる魅力で、さらに素敵になる、と思ってしまいました。
途中でまたまたびっくりしたのが、メンバー全員が交代でMCをするのです。お客様はその度に大喜び。確かに、その人となりを垣間見ることができ、音楽だけでなく、その場にいることが本当に楽しくなる瞬間でした。
ラストはもちろん大ヒットした曲、「スペイン」です。そして、この曲の途中で、コール・アンド・レスポンス。チックが「Comeon〜!!」と言っているので、とりあえず、手拍子だと思い、手拍子をすると、「No,No,Sing〜!」というのです。チックがピアノでメロディを誘導してくれて、大合唱。もう〜、楽しい!信じられないサービス精神に誰もが感動したと思います。
音楽を演奏するだけでなく、お客様達を心から楽しませて帰らせる、ということは大人のアーティストとしてのたしなみかもしれません。
私もライブでコール・アンド・レスポンスをする時があるのですが、時々、ステージの合間に共演ミュージシャンが「なんかこれって恥ずかしい〜」ということを言います。今度、もしそんなことを言われたら、「青いよ!」と言ってやりたいものです。リターン・トゥ・フォーエバーを見習いなさい、と。