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「人生の節目とも言える大役に挑む作品への熱い思いを語ってもらった。」スペシャルインタビュー
取材日:2021.10.06


チャールズ・ディケンズの長編小説「オリバー・ツイスト」を原作に
生み出された傑作ミュージカル『オリバー!』。
ヴィクトリア朝のイングランドを舞台に、
孤児のオリバーが本当の愛を探し求める物語のなかで、
ユニークな人物として登場するのが、
子どもたちのギャング団のボス・フェイギンだ。
市村正親とのダブルキャストでこの大役に挑む武田真治。
これが節目になるのではないかとも感じているとあって、作品に向かう思いは熱い。


武田さんは今回、オーディションを受けてフェイギン役に決まったそうですね。

もともとフェイギン役は、プロデューサーであるサー・キャメロン・マッキントッシュのご指名で、市村正親さんがおやりになることが決まっていたんです。コロナ禍でダブルキャストということになり、僕は15年前に『スウィニー・トッド』というミュージカルでご一緒して以来、公私ともに市村さんにとてもお世話になってきたので、僕がダブルキャストを勝ち取って、市村さんから始まったこのビッグプロジェクトを支えることが恩返しになるのではないかと思ったんです。オーディションはもう本当に必死でした。もちろんこれが、『レ・ミゼラブル』などを生み出した、この星で一番有名なミュージカルプロデューサーの作品であったということも、奮い立った理由のひとつではありました。

市村さんとのダブルキャストということは、学ぶことも多そうです。

ご覧くださった方には、それぞれの持ち味が活かされた印象の違うフェイギンになっていると言っていただいたりもするんですが、自分としてはやはり、市村さんがいなかったらその違うフェイギンも作れなかったと思っています。市村さんはしっかりフェイギンの人間ドラマを作っていこうとされていましたから、最初はそれこそ市村さんの真似をしながらやっていました。

フェイギンは子どものスリ集団の親玉という役どころです。どんな人間ドラマを持った人物だと捉えていらっしゃいますか。

面白いのは、彼が単に悪とは言えないところなんです。そして善でもない。極めて人間くさくて、ずるさもあれば臆病なところもある。こういうビッグミュージカルで主人公のひとりがそんな複雑な人間として描かれることはなかなかないですから、それがこの作品の魅力のひとつだなと思いますね。さらに、オリバー少年の物語がこれ以上ないくらい好転して終わるときに、フェイギンは自分のちっぽけさを知る。とくに二幕のそこへ至るまでのドラマを表現するには、役者としても人間としても、もっと精進が必要だなと感じています。

武田さんの年齢からすると、いわゆる“老け役”になりますが、今の武田さんがこの役をやることについてはいかがですか。

僕は、役者って人生の季節を(時代を)お見せしていくカタログのような存在である部分もあるのかなと思っているので、武田もこういう役をやる時期に(年齢に)なったんだと感じていただけたらと思います。僕自身が役を通して人生の指針になることも学んでいるので。間違いなく自分のこれからのために必要な役だと思っています。



オリバーにドジャー、ギャング団の子どもたちと、子役がたくさん出演する作品です。番宣などを拝見していると、子役さんたちとすごく上手にコミュニケーションを取っていらっしゃいましたね。

稽古を重ねるうちに僕のフェイギンは、子どもたちから少しナメられてるところがある感じがいいんじゃないかなと思ったんです。それは市村さんの威厳あるフェイギンとの違いを出す意味でも、僕個人のキャラクターとしても、「面白いおっちゃん」だと思って子どもたちがついてきているように見えたほうが、自然かなと思ったからなんです。だから、普段から一方的な言い方はしないようにしていますし、例えばじゃんけんのようなゲームが始まったら、こっそり積極的に負けるようにしています(笑)。この人には必ず勝てると思ったら、子どもたちのほうから気軽に話しかけてきてくれるんですよ。お芝居を作るときってやっぱり、何でも言いやすい環境にあったほうがいいですから。

子どもたちとフェイギンの姿から、どんなことが伝わりそうでしょう。

産業革命時代のイギリスの底辺で生きる人々の物語ですが、このご時世になって苦しんでいる人も多い今、大人と子どもがちゃんと手を組んだらどんなことも何とか乗り切れると思っていただけるんじゃないでしょうか。もちろんスリをしろいうわけではなく(笑)。実際、東京のプレビュー公演では、どこまで伝えることができて共感していただけるかなと思っていたら、ちゃんとエンターテインメントとして昇華して、ミュージカルのパフォーマンスがエネルギーとして届き、細かいニュアンスまで伝わったようで、うれしかったですね。

武田さんはいつのまにかミュージカル俳優になられていましたね。ミュージカルへの思いも聞かせてください。

『エリザベート』で初めてミュージカルの舞台に立ったときは、なかなか思ったようにできなくて悔しい思いでいっぱいでした。だからこそ、そのチャンスをくれた人がその判断を時間をかけてでも誇りに思ってもらえるようにと、15年間続けてきたんです。基本的に自分の特性として、コツコツ積み重ねる勤勉さがあるので、今は最低限必要な基礎は身についたかなと思っています。それと同時に僕にはその努力さえ自嘲できる不謹慎さを持ち合わせているというところがあって、思いついたら何でもやってみるほうなので、舞台に上がれば自分で楽しいほうに舵を取れるんですよね。ここからさらにいろいろ試していきたいと思っています。

最後に、関西で楽しみにされていることがあれば教えてください。

2012年から6年連続で、USJのカウントダウンでサックスを吹かせてもらっていたんです。それがもう最高で!またできる状況になったら、ぜひ参加させていただきたいですね。

◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/高橋俊詞



12/4 SATURDAY~14 TUESDAY
ミュージカル「オリバー!」
■会場/梅田芸術劇場メインホール
■開演/12:30、17:30
■料金(税込)/全席指定 S¥14,000 A¥10,000 B¥4,500
■お問合せ/梅田芸術劇場 TEL.06-6377-3800(10:00~18:00)
※4歳以上観劇可(チケットが必要になります)
※膝上観劇不可