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「尾上菊之助」スペシャルインタビュー
取材日:2018.04.20

歌舞伎座での公演はもちろんのこと、
今年は大河ドラマ「西郷どん」の月照役でも注目を集めている
歌舞伎役者・尾上菊之助。
この6月末から始まる(公社)全国公立文化施設協会主催
「松竹大歌舞伎」東コースの巡業公演では、座頭を勤めて全国を回ります。
5年前の秋、共演するはずだった十世坂東三津五郎の休演で、
はからずも一座を率いることになった菊之助にとって、
今回のこの重責には特別な思い入れもあるようです。
上演される3つの演目『近江のお兼』『曽我綉俠御所染 御所五郎蔵』『高坏』は、
いずれも歌舞伎の面白さを伝えるのにふさわしいとの自負もあります。
しっかりと経験を積み、歌舞伎の中心を担う世代となった今、
どんな舞台を作り、何を目指すのか。
巡業への意気込みから、菊之助の舞台への探究心も見えてきました。

巡業公演は歌舞伎座公演とはまた違う心持ちになられるものですか。

歌舞伎の常打ち劇場がないところを廻らせていただくので、お客様もやはり、歌舞伎があまり身近でない方が多いと思うんです。そういう方々が劇場に足を運んでくださるということは、もしかしたらそのお客様にとってはこれが最初で最後の歌舞伎になるかもしれない。そんな思いで、1日1日、演じています。



いい観劇体験をしてもらうために、どんなことに気をつけておられるのでしょう。

その劇場にとってベストな状態で芝居をすることを考えています。劇場によって音の反響などはそれぞれ違いますから、少し早めに劇場に入って、自分で声を出して反響を確認して。劇空間を自分の身体で感じたうえで、その劇場に合ったお芝居のサイズ感というものを計算してやっています。

巡業ならではの楽しみもおありかと思いますが、これまででどんなことが印象に残っていらっしゃいますか。

劇場にもよりますけれども、歌舞伎座よりもお客様との距離が近いので、いつも以上にお客様の空気を感じながら芝居ができるのが、巡業の醍醐味だと思います。たとえば、『魚屋宗五郎』で廻ったときは、台詞にその土地のお酒の名前を入れたんですが(笑)、そうするとみなさんすごく喜んでくださいました。


実際に、その土地の名物を召し上がったり、座組のみなさんで飲みに行かれたりすることもおありだろうなと想像しますが(笑)。

はい(笑)。前もってインターネットで探したりもします。前回の巡業では、ヤクルトスワローズファンの(坂東)彦三郎さんが、全国のスワローズファンの方々から行く先々のおいしいもの情報を聞いてくれてましたので、今回もやってくださるだろうというふうに期待しているんです(笑)。やはり、一座のみなさんが心身ともに健康で気持ちよく過ごしてくださることが大切ですから。

では、今回もいい巡業になりそうですね(笑)。芝居については、座頭だからと心がけておられることはありますか。

それはもう、いつものように全力投球でやることですね。人に言う前に自分がやってみせる。それが座頭にとってはいちばん大事なことだと思います。それに、教えをいただく先輩の(市川)團蔵さんはもちろんのこと、同年代の彦三郎さんがいてくださることは心強く励みになりますし。(中村)梅枝さん、(中村)萬太郎さん、(中村)米吉さんといった若手も探究心が強くあきらめずに挑戦していくチームですので。気負うことなく、それぞれにひたすら自分の芝居に打ち込んでいけると思います。

それぞれの演目についてどう演じていかれるのかお伺いできればと思いますが、河竹黙阿弥作『御所五郎蔵』では、侠客の五郎蔵を演じられます。

これは各場に歌舞伎の見せどころのある作品です。まず、五郎蔵が遺恨のある星影土右衛門(彦三郎)と出会う場面。男同士の意地の張り合いや駆け引きが、黙阿弥ならではの七五調の台詞のリズムと聞き取りやすい言葉で書かれているので、文句なしに楽しんでいただけると思います。その次は、旧主のために金策している五郎蔵を助けようと皐月(梅枝)がわざと五郎蔵と縁を切り、五郎蔵が逆上するという「縁切り」の場面。胡弓という楽器が入って、ボタンの掛け違いのような芝居を見せていきます。そして最後は、激怒した五郎蔵が、誤って逢州(米吉)という傾城を殺してしまう場面。ここは殺される側の美しさを描いているので、歌舞伎美を存分に感じていただけると思います。

五郎蔵を演じられるのは2度目です。何を大事に演じたいと思われていますか。

前半では男のなかの男、いわゆる男伊達のカッコよさがある役です。衣裳なども考え抜かれた粋なナリですので、そのカッコよさをお伝えするのがまず第一ですね。そして、そこから一転、「縁切り」では激昂して後先わからなくなり、ダークサイドに堕ちていく。その悲しさも含め、極まった男の粋さをお伝えできればというふうに思います。

冒頭でおっしゃったようにこれが最初で最後の歌舞伎になるかもしれないという方にとっては、わかりやすく、最適な演目かもしれませんね。

そうですね。ストレートに歌舞伎の面白さが伝わる演目のひとつなので、ぜひやらせていただきたいと希望を出しました。


菊之助さんが初役で踊られる『高坏』も、まさに初心者も楽しく見られる演目ですね。

そもそもは六代目(尾上)菊五郎が、当時流行っていたタップダンスを日本舞踊に取り入れたらどうなるかと作った踊りです。一度途絶え、十七世(中村)勘三郎のおじさまが再構築なさったのですが、六代目の創作の魂が今も息づいています。ですから、下駄でタップを踊る場面は、大変な修練が必要ですけど、遊び心を持ってやりたいと思います。何より、主人に高坏を買ってこいと言われたにもかかわらず高坏が何かわからず、高足を買ってきてしまうというおかしみのあるお話ですから、お狂言もののやりとりの面白さをストレートにb竄チとスタートラインに立てたかなというぐらいだと思います。やっとその演目の本質、性根をしっかり捉えられるようになってきたかなと。身体の使い方や声の出し方が理解できて初めて戯曲の本質がつかめる。歌舞伎役者はそれまでの準備が大変なんです。

なるほど。体現できるだけの技術が揃わないと、その戯曲の本質を表現することができないということですね。ましてや歌舞伎は、人間やこの世界の大きさとか複雑さが、すさまじく力強く描かれているものですから。

そうですね。歌舞伎が400年残ってきたのは、戯曲やキャラクターにパワーがあるからこそだと思います。ですから、こちらの準備ができてないと、戯曲の力や役柄の力に跳ね返されてしまいますし、その戯曲が面白かったと思っていただけるかどうかは、役者次第なんですね。そういう意味では、毎公演が崖っぷちみたいなものですから。1日1日、もっと追求していかないといけないなと思っています。

最後に、愛知の公演で楽しみにしていらっしゃることがあれば。

焼鳥とひつまぶしは必ず食べたいです(笑)。おいしいものは大好きなんです。料理人の方の心がこもったおいしいものをいただくと、それが活力になりますから。そして、名古屋を中心として、愛知は日本の伝統文化を大事にしていらっしゃるところですから、私たちも伺うのを楽しみにしていますし、ぜひご期待いただければと思います。

◎Interview&text/大内弓子
◎Cover Photo/安田慎一
◎スタイリスト/中井綾子
※スーツ¥345,000(税別)
〈イザイア/イザイア ナポリ 東京ミッドタウンTEL.03-6447-0624〉



平成30年度(公社)全国公立文化施設協会 主催 東コース
「松竹大歌舞伎」

〈豊橋公演〉
7/15SUNDAY

チケット発売中
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/[昼の部]12:00 [夜の部]16:30
■料金(税込)/S¥10,000 A¥7,000 B¥5,000 ほか
■お問合せ/プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090(休館日を除く10:00〜19:00)

〈春日井公演〉
7/16MONDAY・HOLIDAY

チケット発売中
■会場/春日井市民会館
■開演/[昼の部]12:00 [夜の部]16:30
■料金(税込)/S¥7,500 A¥5,500 B¥3,500 (夜の部は各¥500引き)
■お問合せ/かすがい市民文化財団 TEL.0568-85-6868

〈知立公演〉
7/18WEDNESDAY

チケット発売中
■会場/パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)かきつばたホール
■開演/[昼の部]13:30 [夜の部]18:00
■料金(税込)/S¥7,700 A¥5,500 バルコニー¥4,000
■お問合せ/パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)TEL.0566-83-8100