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「黒木華」スペシャルインタビュー
取材日:2015.10.05

昨年、山田洋次監督作品「小さいおうち」でベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞。
銀色に輝く熊のトロフィーを23歳という若さで手にした黒木華。
映画やテレビドラマの話題作に次々と出演するほか、
野田秀樹、蜷川幸雄、栗山民也、長塚圭史ら演劇界の奇才たちが手がける
舞台作品でも抜群の存在感を示しています。
そんな彼女が新たに二兎社の永井愛とタッグを組み、
樋口一葉の半生を舞台化した「書く女」に主演。
2006年の初演では寺島しのぶが主演し、朝日舞台芸術賞(舞台芸術賞)、
読売演劇大賞(最優秀女優賞)を受賞した話題作に挑みます。
若くして名を成すも24歳で早世した女流作家を今、旬の若手女優が、
現代を代表する女性劇作家・演出家のもとでどう演じるのか、興味は尽きません。
根っからの“演劇少女”だという意外にも骨太なバックボーンを持つ彼女が、
新たなステージを前に今、思うこととは―。

樋口一葉が亡くなったのは24歳。今の黒木さんと、ほぼ同じ年頃ですね。

樋口一葉は、「小説を書くんだ!」という自分の思いにすごく真っ直ぐな人です。自分が好きなことに食らいついていく姿勢や、それで家族を食べさせていくんだという気概はカッコいいと思うし憧れます。特に、一葉と家族の関係に興味がありますね。お母さんとの関係性や、姉である一葉のために妹さんがすごく自分を犠牲にしていたり。永井愛さんの戯曲にはそういうところがとても面白く描かれていて、惹かれます。今、自分自身は親と離れて暮らしていますから共通する部分はそれほど多くはありません。私には弟がいますが、彼が私のために自分を犠牲にすることはないと思いますし(笑)。この作品に出てくる女性たちは、みんなアクが強いんです。自分を持って生きている強さに惹かれます。自己をきちんと確立して闘っている姿がすごくカッコいい。一葉のライバルの(三宅)花圃さんもそうですよね。みんな知的で、時代と闘いながら、自分とも闘いながら…。今の時代も、みんな何かと闘っていますよね?そういうところで共感することも多いです。


二兎社には今回が初登場ですが、永井愛さんの作品についてどのような印象をお持ちですか?

登場人物がみんな、とてもチャーミングです。昨年「鴎外の怪談」を拝見しましたが、出てくる人、出てくる人、みんな魅力的で目が離せませんでした。難しいことをあまり感じさせずに私たち観客をどんどん引っ張って、100年前と現代をつないでくれたような。そんなところが素敵だなと思います。今回、「書く女」の公演チラシ用の写真撮影に永井さんが立ち会ってくださったんです。「もっとこういう表情で」とか「こういうことを考えて」と、とても的確に指示してくださって、永井さんの作品づくりの片鱗を見た気がしました。具体的なアドバイスをしつつ、私に遊びを持たせてくれながらどんどん導いてくださるイメージでした。今回は再演ですから、永井さんも演出をどんどん変えていらっしゃるんじゃないかと思っています。初演以降、永井さんご自身の気持ちや考え方も変化されていて、必然的に新しい作品になるんじゃないでしょうか。それを今の年代の私が一緒に作れるのは幸せなことです。今後の自分にも影響してくると思います。このチラシの写真、永井さんの書斎で撮影したんですよ。着ている服も永井さんのものです。戯曲を読んで、樋口一葉って永井さんみたいだなと思っていたので、演じる上で永井さんを参考にさせていただこうと思ったりもしています。


当時、一葉は身近にいた青年文士たちと文学談義に花を咲かせたと思いますが、黒木さんも俳優仲間と演劇談義をなさることはありますか?

あります。「あの映画がすごく面白かったよ」と情報交換し合ったり。先輩方から「あの映画のときはこういう感じで撮影が進んだんだよ」とか「演劇界をもっと熱くしたいんだ」というお話を伺っているだけでもすごく面白いですね。

大学時代にオーディションを受けて野田秀樹さんのNODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」では中村勘三郎さんとも共演なさいました。おふたりからもいろいろなお話を聞かれたのではないかと思いますが。

野田さんと勘三郎さんは本当に仲が良くて、一緒にいられるだけでいつもとても温かい気持ちになりました。特に、若かりし頃のおふたりが出会ったときのお話が好きです。渋谷の道玄坂で勘三郎さんのグループと野田さんのグループがすれ違って、ちょっとバチバチと火花が散るような空気になったけど「こいつは絶対、面白いだろうな」とお互いに思ったそうです。すごく素敵だなって思いました。時代を引っ張り続けてきた演劇界のドンたちがそんなところでドラマチックに出会うなんて。「表に出ろいっ!」で私が共演させていただいたときは、おふたりが55歳ぐらいだったと思うんですけど、そんなベテランたちが時代を引っ張りながら私たちよりも先の時代をどんどん進んで切り開いていっていることに圧倒されました。私もそんな役者さんになりたいと思います。

黒木さんは高校の演劇部で活躍なさって、大学時代も演劇漬けの日々だったそうですね。

大学の映画学科俳優コースに在籍していました。先生が主宰なさっている劇団の作品に出させていただいたり。ほかにも、他の大学の劇団の作品に参加したり高校の先輩のお芝居に出たり、映画学科なのに舞台にばかり出て、あまりよく思われていなかったんじゃないかな(笑)。


そんな中、演じるということにどのように魅せられていったのでしょうか。

大学2年のときに「ザ・キャラクター」にアンサンブルで出させていただいて、プロの俳優さんたちと一緒に、自分の好きな作品に関われたのはすごく大きな転機だったと思います。憧れの野田さんのもとで宮沢りえさんや古田新太さんのお芝居を本当に間近で見て、そこで自分も一緒に考えることができる機会に触れたときに、自分もこういうことがしたいと思うようになりました。それまで、まさか自分が役者になれるとは思っていなかったので。あの経験があって、自分もこうして舞台に立てるんだと思ったし、「続けたい」「一緒にやりたい」と、夢だったものが初めて実感になったという感じでした。


今、映画やテレビドラマの注目作にも多数ご出演なさっていますが、舞台に立つということは黒木さんにとって特別なことですか?

そうですね。やっぱり、お客さんと一緒に作品を共有できたり、長い期間その作品に関われるというのはとても贅沢なことですから。それに、自分が最初に大きな影響を受けたものなので、舞台は特別ですね。舞台のお仕事は、すごく幸せになります。

今後、ご自身で作ってみたいという思いなどは?

演出ですか?私が??できないです!演出家や映画監督って、すごいと思うんです。登場人物全員の気持ちを考えないといけませんから。今の私が手がけるとしたら…てんやわんやになると思います(笑)。「もしも」と仮定するなら、60歳ぐらいになったら…(笑)。今はとにかく、できるだけいろいろな作品に出たいですね。たくさん経験して、自分自身ではなくてその作品の中で生きる人物として見ていただける役者になりたいと思います。そして、一緒に作品づくりをする方たちに「楽しいな、面白いな」と思ってもらえるような人間に成長していきたいですね。



二兎社公演40「書く女」
◎作・演出/永井愛 ◎作曲・ピアノ演奏/林正樹
◎出演/黒木華、平岳大、木野花
朝倉あき、清水葉月、森岡光(不思議少年)、早瀬英里奈、長尾純子
橋本淳、兼崎健太郎、山崎彬(悪い芝居)、古河耕史
◎愛知公演
2/2 TUESDAY

チケット発売中
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール 
■開演/18:30
■料金(税込)/S¥6,000 A¥5,000 B¥3,000 ほか
■お問合せ/プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090
※未就学児入場不可

◎岐阜公演
2/4 THURSDAY

チケット発売中
■会場/大垣市スイトピアセンター 文化ホール 
■開演/18:30
■料金(税込)/[一般]S¥4,000 A¥3,000
[25歳以下及び65歳以上]S¥3,000 A¥2,000
■お問合せ/大垣市文化事業団 TEL.0584-82-2310
※未就学児入場不可