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「猿之助と愉快な仲間たち」スペシャルインタビュー
取材日:2022.12.15


2022年2月の朗読劇『天切り松闇がたり~闇の花道~』に始まった
「猿之助と愉快な仲間たち」。
第2回公演『森の石松』、第2.5回公演七川劇団リターンズ『新説 堀部安兵衛』に続き、
第3回公演『ナミダドロップス』が上演される。
今回は東京のみならず、京都、愛知が加わり、
しかも、ここ愛知の岡崎市民会館で上演されるのは、
夜の部に舞踊がある特別公演。市川猿之助と、“愉快な仲間たち”から
市川青虎、市川笑猿、市川翔三、市川喜介、立和名真大、大知の6名が顔を揃え、
愛知公演に向けての思いを語ってくれた。


改めて、「猿之助と愉快な仲間たち」を立ち上げた経緯からお願いします。

猿之助:コロナ禍という未曾有の事態に遭遇して舞台公演が一斉に止まりました。僕自身はテレビの仕事もありましたが、お弟子さんたちをはじめ仕事がなくなった舞台俳優がたくさんいましたから、その仲間たちを救済しようと始まったのがこの企画です。第2回からは運営面を青虎さんがいろいろとやってくれて第3回も決まり、その後急遽決まった公演を第2.5回として上演しました。

青虎:僕は、第1回公演は自分の襲名を控えていて携われなくて、第2回から仲間に入れていただいたんですが、やる側だけではなく観てくださる方々も一緒に協力してくださって、みんなで芝居を作るということが本当に楽しかったんです。だから、この素晴らしい企画が続けばいいなと、自分もできることをやってきたんですけど。今回はみんなが役者以外のことを持ち場持ち場でやってくれているので、演出に集中させてもらっています。

それぞれどんな持ち場を担当していらっしゃるのでしょう。

猿之助:まず笑猿はうちのIT担当です。

笑猿:TwitterなどSNSの発信をしたり、映像を作って配信したりしています。

大知:僕は、第2回、第2.5回で演出助手をされていた扉座の大川亜耶さんがスケジュールの都合で参加できない期間だけ、演出助手として入らせていただきます。将来的に自分で作品を作りたいと考えているので、青虎さんに声をかけていただきました。

翔三:僕は、歌舞伎俳優以外の役者さんのスケジュールを聞いて稽古スケジュールを組んだり、本番までのことを主にやっています。

青虎:では、立和名くんにオチをやってもらいます(笑)。

立和名:僕はそうですね、とくに何も割り当てられてないんですけど(笑)。

全員:(笑)!

立和名:買い物とか雑務を、何でもやっていこうと思っています。



今回の『ナミダドロップス』は、鶴屋南北の「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」とヴィクトル・ユーゴーの「ノートルダム・ド・パリ」を原作に書かれた新作と伺っています。内容について、演出の青虎さんから聞かせていただけますか。

青虎:第2回が終わったときに第3回をやろうと早速猿之助さんが動き出して、まず、いろんなご縁から東京の神田明神ホールが取れたんです。そこで猿之助さんが、「金幣猿島郡」なら、澤 屋にゆかりがあり、将門の話ですから神田明神ホールでやるにはもってこいではないかと提案してくださって。ただ、第2回では嘉島典俊さんなど大衆演劇の方々に衣装と床山を協力いただいて何とかできましたけど、毎回お願いするのは申し訳ない、今度は着物や鬘が必要のない芝居をやろうという話もしていたので、「金幣猿島郡」を現代版にアレンジした新作を作ろうということになったんです。それで、そもそも脚本を書ける人をもっと探さなければいけないなといろんな芝居を観に行ってはいたんですけど、そんな中、SNSで同級生の藤倉梓さんが書いた芝居をやるというのを見つけて、観に行ったらすごく面白くて。「金幣猿島郡」の鶴屋南北の原本と、昭和50年代からの上演を記録したDVDを渡して脚本をお願いしたんです。そうして、“鐘”が象徴的に出てくるということで、「ノートルダムの鐘」とミックスしたら面白いんじゃないかという話になっていきました。

青虎さんからリクエストされたことは?

青虎:歌舞伎には筋が通らないことも成立させてしまう力があって、「金幣猿島郡」の藤原忠文や清姫も、不幸なままなんだけれどもきれいに完結するんです。でも、将門やノートルダムの鐘つき男の時代から人間が抱えている問題は解決していなくて、それぞれのアイデンティティが認められなかったり、戦争が続いていたりする。だから、多様性の時代になっているんだし、そろそろ問題を消化させてやれないかなとお願いしました。

第3回公演に向けての皆さんの意気込みをお願いします。

立和名:猿之助さんとは『元禄港歌─千年の恋の森─』(16年)でお会いして、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』(17年)『新版オグリ』(19年)でお世話になりました。そのご縁で第2.5回公演に呼んでいただき、3年ぶりくらいに舞台に立ってセリフを言って、その喜びを思い出しました。今回は、一から作品を作る一端を、支えられればなと思います。

翔三:僕は第2.5回から参加して、舞台の骨組み作りから勉強させていただいたので、学んだことを活かせればと思います。

大知:僕は第2回公演が初舞台でした。皆さんのチーム力を目の当たりにして素敵だと思ったので、今回も少しでも青虎さんの力になれたらと思うのと。役者としては、これまで絡めなかった方々とも一緒のシーンがあることを楽しみに頑張りたいと思います。

喜介:僕はまだ歌舞伎の世界に入って1年ちょっと。先輩たちの姿を見て盗んで芝居に落とし込んでいきつつ、ただ楽しいだけじゃなく、緊張感を持って臨みたいと思っています。

笑猿:この企画では、歌舞伎以外の役者の方々からも刺激を受けてありがたいと思っていますが、今回は演目自体も、歌舞伎ではない「ノートルダム・ド・パリ」との融合なのでそれも楽しみですし。それぞれが芝居以外のところで担っている働きで個性も出てくると思うので、頑張りたいと思います。

歌舞伎以外のキャストで松雪泰子さんが出演されるのも楽しみですね。

猿之助:松雪さんとは舞台『藪原検校』(21年)でご一緒して、この活動に協力できることがあればとおっしゃっていただいたんです。松雪さんのリアルな女性の芝居から僕たちが勉強できることはたくさんあると思います。リアルな芝居が上手い人は歌舞伎の芝居も上手い。垣根はないんです。とにかく見て、やって、自分に何が足りないかを学んで、身につけてほしいなと思っています。

岡崎公演では、お芝居以外に、夜の部で舞踊も披露されます。

猿之助:いずれ古典も加えた形で巡業できたらいいなという思いがありましたが、これがその第一歩になるでしょうね。

青虎:四代目(猿之助)はずっと、新作と古典を両立していかなければいけないとおっしゃっていて、本当にその通りだと思うので、その機会を岡崎市民会館さんに与えていただけたのはありがたい限りです。個人的にも、愛知と言えば、僕はずっと中日劇場さんにお世話になっていて、小学校6年生のときに初めて一人で地方公演に出たのも中日劇場さんだったですけど、その頃から観てくださっている方々から、東京や大阪、京都に足を運んでいるというお手紙をいただきます。なので、ようやく愛知近辺の皆様の思いに応えられるのもうれしくて。こうしてステージ数が増えるとみんなの経験も増えますし、ありがたいお話をいただきました。

猿之助:この第一歩から、どんどん規模が大きくなっていけばと願っています。

◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/中野建太



3/21 SUNDAY
猿之助と愉快な仲間たち 第3回公演
「ナミダドロップス」

■会場/岡崎市民会館 あおいホール
■開演/11:30
■料金(税込)/全席指定 S¥8,000 A¥7,000
■お問合せ/岡崎市民会館 TEL.0564-21-9121
※未就学児入場不可