HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「上妻宏光」インタビュー

「上妻宏光」スペシャルインタビュー
取材日:2012.09.15

津軽三味線奏者、上妻宏光。幼少期から純邦楽界で高い評価を受けながら、
ジャズやロックなどジャンルを超えたセッションで注目を集めるアーティストです。
独自のアプローチで “津軽三味線の伝統と革新”を追究し、進化を続ける彼。
来年3月には、全国ツアーで名古屋にも登場します。

津軽三味線をギターのように弾いても意味がない。この楽器でしか、自分にしか出せない音を出す。


メジャーデビューされて10年余り立ちますが、演奏することやご自身の音楽に対する考え方に変化はありましたか?

ソロデビューで初めて自分名義で出したCDは、それまでやってきた20数年間の中で「こういうことがやりたい」という思いがとても詰まっているアルバムでした。10代の頃からずっと洋楽を聴いていたので、洋楽器との絡みというかアンサンブルをやりたかったんですよね。洋楽器に関しては、コンプレックスがあったのかもしれません。例えば小学生のときなんかも、三味線を知らない同級生がいるわけです。それに、若い人がやるというイメージはなかったでしょ?だから、三味線に対するイメージを変えてみたいというのが、子ども心に強く芽生えたんですよね。その当時、やっぱり普段は歌謡曲、今でいうJ-POPを聴いていたので、そういうサウンドに「三味線が入らないかな、入れたいな」という気持ちが出てきたんです。それが何年か経ってくると、もっと三味線らしさを出せる音楽を作りたいと思うようになって。それから、全部を演奏するということを考えなくなりましたね。例えば、10月にリリースした最新アルバムは、やはり共演してくださる方の楽器の特性やメロディをまず考えました。それから実際に三味線を弾いてみて、三味線で弾くにはちょっと難しいとか、そういう問題をクリアしていって…。10代の頃は三味線に寄った楽曲作りをしてきたので、三味線は凄くやりやすかったんです。周りの洋服だけいろいろと換えてきたわけですね、アプローチを。でも、自分の中での作曲の仕方が変わってきた。まずは三味線重視だった作品づくりが「この楽器だったらこういうメロディがきれいなんじゃないかな」と想像しながら…極端に言うと鼻歌で歌うように…作るようになって、作品の表現の幅が違ってきたなと思いますね。

洋楽器や他ジャンルのアーティストとコラボレーションする三味線奏者は、多くなかったですよね。

僕が17歳のときにロックバンドで三味線を弾き始めた頃は、本当に数人しかいませんでした。だから、今みたいに三味線でいろんなスタイルの音楽ができる時代が来たのは、凄くいいことだなと思いますね。僕が10代の頃は、やっぱりそういうことをすると津軽三味線じゃないと言われたりしました。腹を括ると言ったらちょっと大げさかもしれませんが「僕はこの世界じゃなくてもやるんだ」という気持ちもどこかで腹に決めながら活動し始めましたね。だから、僕らの下の世代の人たちは凄くやりやすくなったと思うし、もっと自由に演奏活動ができるようになったんじゃないですかね。

上妻さんの演奏を聴くと、異ジャンルの方とコラボレーションしていても軸がぶれていない…あくまでも津軽三味線の音を追究していることがとても伝わってきます。

そう言っていただけると非常に嬉しいですね。津軽三味線がギターみたいになっては意味がないと思うんです。やっぱり、らしさというか、この楽器にしかできない、自分にしかできない音を出したい。この楽器の古典以外の奏法で、いろんな音楽に対応できるようにしたいと思うんですよね。そのために、音色や奏法を変えたくなる。微妙な差なんですけどね。その音楽にどう溶け込もうか、この楽器とどうやって混ざればいいか…。その曲や一緒に演奏する人にどう合わせるかという点で、やっぱり古典以外の奏法を自分なりに確立してきたつもりではあります。


伝統と格式に楔を打ちたい。


最新アルバム「楔 -KUSABI-」でも感じさせてくれますね。

オリジナルアルバムは5年ぶりなんですよ。その間も、ピアノの塩谷哲さんとAGA-SHIOというユニットを組んでアルバムを出したりしましたが、自分の作品は久々なので、そういう時間を持ててよかったと思います。本当にやりたいことも多かったので、ごちゃ混ぜみたいな感じのアルバムです。曲のタイプとしても、いろいろ入っていると思います。それも今までだと「こういうコンセプトだからこういうアルバムにしよう」という感じで、激しいもの、ミドル、スローテンポのもの…とか考えていたんですけど、今回はやりたいのをとりあえずやろうと思って。だから、選曲も曲調もいろいろですね。ただ、軸の部分ではブレていないと思うので、その辺は久々に自分のアルバムでレコーディング作業を楽しめました。

来年には、同じタイトルのコンサートツアーも控えています。

これまで、伝統と格式というキーワードでやってきましたが、そういうところに楔を打つというのをこれからのキーワードとしてやっていきたいなと思っているんです。もともと「楔」というイベントを行っていて、そこから来ています。それが僕のライフスタイルというか、今の自分が目指していることなので、アルバムもライヴも連動して聴いてもらえるように両方のタイトルにしました。今回は、バンドネオンの小松亮太君をゲストに迎えます。今まで三味線とコラボしたということもあまりないと思いますし、日本の真裏にあるアルゼンチンの楽器と三味線が合うんだな、と感じてもらえたら…。それに、そうしたコラボの音を聴くことで、それぞれ単体で演奏したときの良さというのを感じてもらえると思うんです。そういった意味でも今回のツアーは、僕もワクワクしていますね。

リハーサルで手の内は明かさない。


さまざまなジャンルのアーティストとコラボレーションする意義を、どんなところに感じていらっしゃいますか?

ベーシックが深い人ほど、一緒にやると楽しいんですよね。お互いの底のぶつかり合いというのが。ステージに立ってパッと音を出した瞬間に、表面上では味わえない腹の中が見えるというか…。音楽って絶対に嘘をつけないので、そこの芯のところに触って、「おっ、いいね、面白いね」とお互いに共鳴する瞬間、その化学変化がやっぱりたまらないんですよね。相手に触発されて違うフレーズが出てきたり、アイデアが出たりする。自分の引き出しが増えるから、やっぱりやってて楽しいんですよね。それはもう、頭じゃなくて感覚です。本当にパッと会って、パッとステージに上がって合わせたとしても、その探り合いが楽しいんですよね。「俺はこんなの出来るんだぞ」と相手が来た瞬間に、「ああそう、いいね」と受ける。で、相手がちょっとよそ見した瞬間に「どうだ、俺もすごいだろう」と、こっちが前に出たり…そのやり取りが音楽の中であるわけですよね。「お前ちょっとよかったよ、酒飲もうよ」「楽しいな、いいな」というのが音楽のバトルの中で起こる。それを構築していくのが楽しいんですよね。

そうしたやり取りが、準備なしでまさにライヴで起こるんですね。

基本的にリハーサルでは手の内を明かさないんですよ。なんとなく4割ぐらいに押さえておく。「これぐらいはやりますよ」とは、アピールしておいて、「まぁ、やるじゃない?」という状態で一応終わるんですよね。で、本番で飛び道具を出すわけですよ。そうすると、「おっ、この野郎、負けないぞ」と返してくるのがまた楽しい(笑)。そういうときはバンドも興奮するんですよね。「面白いな、そう来たか」みたいな感じで、ドラムの人が興奮したりしてるのをビンビン感じる。今度はピアノの人が「面白いな、どうする?」という感じでが音で交わってきたり…そこでひとつの渦というかグルーヴが生まれるんです。これはやっぱり体験しないとわからないぐらいの気持ちよさなんですよね。そんなとき、日本人で日本の三味線をやっててよかったなと思うし、民謡が大好きで始めてよかったな、自分はそのベースを持っててよかったな、と強く感じますね。


3/3 SUNDAY
上妻宏光 Concert Tour 2013
楔 −KUSABI−

チケット発売中
■会場/愛知県産業労働センター 大ホール(ウインクあいち)
■開演/16:00
■料金/全席指定¥6,000
■お問合せ/キョードー東海 TEL.052-972-7466
※未就学児入場不可