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清水ミチコのシミズム

先日、岩手県釜石市へライブをしに行ってきました。
震災からほぼ一年。
街には少しずつですが復興のきざしがあり、
春からのシーズンは、わかめ漁ツアーなどもできるそうで、
無口でやさしい漁師の前川さんという方の船に私も乗せてもらいました。
沖へ出て一時間程たち、さすがに海風が冷たくなってきた頃。
ずっと無口だった前川さんがふいに自分のコートを脱いだと思ったら、
それを黙って私を包むようにかけてくれたではないですか。
ほ ほ ほ ほ ほ ほ ほ
惚れてまうやろ〜っ!! でした。
帰ってからおかみさんたちに
「前川さん、私にコートかけてくださったんですよお〜」と言ったら、
「前川さんは海の男だよ〜」。とのこと。
なんでも震災当日、自らをかえりみず、たくさんの人を救い、
また亡くなった方のご遺体を徹夜で納めてくださり、
皆から大変感謝されてたそうです。
口に出さずに心で頑張る、
なんてところに、ふと東北魂を見た思いがしました。
さて、昼間も港を前川さんに案内してもらいました。
防波堤から海をながめながら、
「ここにも遺体がたくさん浮いててなあ…。」と、
当時を振り返る前川さん。
私も、真下に波打つ海に向かって祈りました。
そこへ、何も知らない前川さんの友人Aさんが来て、こう言いました。
「ミッちゃん。この防波堤にへばりついた岩海苔、最高にうまいんだ〜」。
そして、私の足元から海苔をブチッとちぎって

「食べてい〜よ!」

と、自分もほおばりながら笑顔で差し出します。
私は(今、故人にお祈りをしてたばかりでして…)
などという思いも飲み込み、
ええい、ままよ、とばかりにその海苔を噛みしめました。
あれ?おいしい…。
「いい香りですね!おいしいです!」と、飲み込みながら、
(東北の一部を、私の身体の中に入れたぞ〜!)
という思いで、ライブ会場に向かえたのでした。