HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.30 「黒塚 白頭」

ドラマチック!OH!能

「道成寺」「葵上」とともに三鬼女と呼ばれる演目です。シテ(主役)は前半では女として現れ(前シテ)、後半は般若の面をかけます(後シテ)。般若の面は女の恨みや執心を表しますが、どこか悲哀を帯びた印象を伴います。前半での女の語りは、深い詩情と秋の物寂しい風情をも醸します。ところが、約束を破られ、決して見られたくなかった閨を見られたことから、女が激しい憤りの鬼と化してしまう。この豹変が、寂しい陸奥の山麓と相成って恐ろしさを増すのです。


原田七寛

【物語】紀伊国(今の和歌山県)那智、東光坊(とうこうぼう)の修験者、阿闍梨祐慶(あじゃりゆうけい)は、山伏らと共に修行の旅を続けていました。ある日、人里離れた安達原(今の福島県安達太良山麓)に辿り着いた一行は、一人住まいの女のあばら家を訪ねます。祐慶たちは、女に頼み込み、何とか泊めてもらうことになりました。家の中で祐慶は見慣れない道具を見つけ、女に尋ねます。女は、枠桛輪(わくかせわ)という糸繰りの道具であり、自分のような賎しい身分の者が取り扱うのであると答え、糸繰りの様子を見せます。女は、辛い境遇の我が身を嘆き、儚い世をしみじみ語ります。夜も更け、女は薪を取りに行くと祐慶に告げ、留守中に決して自分の寝室を覗かないようにと告げて出ていきます。ところが祐慶の従者のひとりが、祐慶に戒められながらも女の部屋を覗いてしまいます。すると、そこには死骸が山のように積まれているのです。女は、安達原の黒塚に住むと噂の鬼でした。慌てて逃げ出す祐慶たちに、鬼に変身した女が、秘密を暴かれた怒りに燃えて追いかけ食らおうとします。しかし、祐慶たちが必死に祈り伏せると、鬼女は弱り果て嵐の音に紛れるように姿を消しました。