HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.7「清経」

ドラマチック!OH!能

「清経」は世阿弥の自信作のひとつで、修羅能の代表的な一曲。今回の豊田市能楽堂では「音取(ねとり)」という特殊演出で行われます。シテが笛の音に合せて橋掛りから舞台へ登場するのですが、笛の間は歩み、止むと留まるというような笛方とシテの間合いが見どころです。


平清経(月岡芳年画)

【物語】平家一門が都落ちした後、都でひっそり暮らしていた平清経の妻のもとへ、九州から、家臣の粟津三郎(あわづのさぶろう)が訪ねて来ます。三郎は、清経が豊前国柳が浦〔北九州市門司区〕の沖合で入水したという悲報を清経の妻に知らせに駆けつけたのです。形見の品として清経の遺髪を手渡された妻は、再会の約束を果たさなかった夫を恨み、悲嘆にくれます。討死や病死ではなく、自ら死を選んだことを嘆いたのです。そして、悲しみが増すからと、遺髪を宇佐八幡宮〔現大分県北部の宇佐市〕に返納してしまいます。しかし、夫とせめて夢で会えたらと願う妻の夢枕に、清経の霊が鎧姿で現れました。もはや現世では逢うことができないふたり。再会を喜ぶものの、妻は再会の約束を果たさなかった夫を責め、夫は遺髪を返納してしまった妻の薄情を恨み、互いを恨んで涙を流します。やがて、清経の霊は、死に至るまでの様子を語りながら見せます。はかなく、苦しみの続く現世よりは極楽往生を願おうと、月の夜に舟の上で笛を吹き今様を謡ったのち、入水したのです。さらに死後の修羅道の惨状を現しますが、最期に唱えた念仏によって救われ、成仏したことを告げて消えてゆきます。