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世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

第二十二回「幸せになる女の絶対条件」

ぶれない意志の強さが幸せを招くーそれが「毛谷村」のお園です。 父を殺した敵を探し求めている武士の娘ですが、ユニークなのが、そのキャラクター。大力の大女で武芸の達人で、男装をしています。これは敵討ちの旅の途中という設定のためで、深編笠で顔を隠して旅する虚無僧姿で登場。 妹や家来まで敵に殺され、貧しい旅を続けて苦労の連続なのに、彼女には不思議と暗い影がありません。そんな「まっすぐなしっかり者」キャラは、どこかアニメ映画のヒロインにも共通します。 そんな妙齢の女性に欠かせないのは「お似合いの彼氏」。実はお園にはフィアンセがいます。亡き父の弟子、武芸の達人で、名を六助といいますが、お互いに顔も知らないという設定。 六助の住む田舎家に、やって来たお園。実は六助は、お園が探す敵と、それとは知らず接触しており、殺されたお園の妹の子供も保護しています。子供の身元がわからないので、親の手がかりになるようにと、子供の着物を外に干していたのを、通りがかったお園が見つけます。 この六助は、歌舞伎界きってのナイスガイ。優しく正義感があり、器量も大きい。干された着物を見て、彼を敵と勘違いしたお園が斬りかかりますが、刃を防ぎながら、子供を太鼓で器用にあやしつつ、お園に釈明する姿は、さすが武芸の達人です。 お園はお園で、彼がフィアンセとわかるやいなや「私の王子様はここにいたのね!」とウキウキ状態。急に女らしくなり、押しかけ女房よろしく家事を始めますが、尺八を火吹き竹と間違えたりして、六助をあわてさせます。 キモは、お園のまっすぐさ。「急に態度を変えると恥ずかしい」などという計算はなく、自分が信じるものに対して、潔いほど率直。「求めても得られないとガッカリだし、かっこ悪いから、ほどほどにしておこう」という打算は、常にお園にはなく、天が味方するのは、そういう人なのも知れません。 六助はお園の敵討ちに協力すると約束し、お似合いのカップルの幸せなその後を暗示して、幕となります。