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国内外の既成戯曲、小説をベースに独自の劇世界をつくる第七劇場。チェーホフ、イプセン、ドストエフスキー、川端康成、三島由紀夫など、世界の文豪の作品を題材にしてきました。最新作では満を持して夏目漱石を取り上げ、三つの小説が交差する世界から、その文学性に迫ります。

夏目漱石を取り上げるのは初めてですね。

漱石作品の舞台化自体は随分前から温めていた構想でした。私は作家ではないのでどう舞台化しようかと模索していたところ、以前から親交のある文学座の五戸真理枝さんと再会し、「一緒に何かやりましょう」と意気投合したのがきっかけです。五戸さんは演出家ですが劇作もなさるので、「漱石の原作で台本を書いてもらえませんか」と提案し、今回の企画が立ち上がりました。夏目漱石という人は、明治の言文一致運動の中で新しい日本語の文体を模索し、西洋の文化や歴史と向き合う中で多くの苦悩を抱えた作家でした。そうした背景を五戸さんと共有し、彼女が書きたいものを編んでくれました。

「草枕」「三四郎」「明暗」という3つの小説がモチーフ。劇中では、作品の枠を超えて登場人物たちが交差します。

台本は、8割近くが原作からの引用で構成されています。漱石の小説家としての活動期間は10年ほどですから、作家性の劇的な変化はあまりないように思います。そもそも40歳手前で作家活動を始めているので、発想やスタイル、取り組むべきものがある程度見えている状態だったはずです。そう考えると、異なる作品の登場人物たちが同じ空間で対話しても、課題が成立しやすい。むしろ、それぞれの作品において登場人物が背負わされているものの微妙な違いが、より明確になりそうだという気もしました。例えば「草枕」の中で、画家が「人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。」と語る場面があります。漱石の小説は、単にストーリー展開を楽しむというよりも、そこに登場する人間たちの言動を通して、読む人(観客)自身の人間性や価値観が逆照射されるような効果を持っているのです。

物語ではなく人間を書くことで、結果的に物語が構築されていく。それは、当時の文学において画期的な手法だったのでしょうか?

どちらかというと、異端だったと思います。当時の主流だった自然主義文学が人間の情緒の流れを描くことに注力していたのに対し、漱石は漢籍と西洋文学を自らの中で統合し、文章の工夫によって社会や人間の多面的な「全人格」を描こうとしました。物語に都合の良い部分だけでなく、人間の複雑な面を極力捨てずに書く努力をしていたそうです。人物を丁寧に描くことで人間や社会という大きな物語を見せる手法は、チェーホフの戯曲とも共通しています。「物語を書く」ことが主流になっていった時代に、かなりレアな存在だったと思います。

そうした漱石の小説の構造や優れた点を演劇で示す上で、どのような工夫をされますか?

文学好きや漱石ファンにとっては、かなりマニアックな楽しみ方ができる作品だと思います。一方、漱石に関する事前知識や精読の経験がなくても、純粋に「ひとつの演劇作品」として誰もが楽しめる空間づくりを意識しています。具体的には、リアリズムではありえない時空間の飛躍があったり、難解な文章が出てくると字幕を入れたり。例えば、登場人物が非常に難解で長い台詞を喋っている最中に、別の人物が「字幕を出すのでもう一度言って」とストップをかけるシーンなどもあります。

鳴海さんは2012年に渡仏し、ヨーロッパの演劇文化に触れられました。その経験はご自身の作品づくりにどう影響していますか。

ヨーロッパで観た演劇の社会的立ち位置や、数百年以上にわたる圧倒的な戯曲の蓄積、実験的な表現の数々に大きな衝撃を受けました。明治期に鴎外や漱石が欧州へ渡って受けたショックと同種のものを体感したと思います。ただ、ヨーロッパのやり方をそのまま日本に持ち込んでも成立しません。受けた衝撃、その面白さをいかにリフォームし新しく形づくるかが、自分のやるべきことだと実感しました。実験的な挑戦で表現の枠を広げつつ、観客が直感的に理解し楽しめる間口やベースラインをしっかりと保つ。帰国後には、そのバランスの追求をしなければいけないと。漱石も、日本に帰ってから新しい日本語を作ろうとしていました。その方法論的な悩みは、同種のものだという気はします。もちろん足元にもおよびませんが。

「サンカクと文明」を、観客にどのように受け取ってもらいたいですか?

明治〜大正時代に書かれた小説をベースにしていますが、「私たちの物語」「私たちの言葉」だと感じられる台詞や文章がたくさん散りばめられています。100年以上前に漱石が編んだ言葉ですが、自分について語られているように感じる瞬間もあるはずです。この作品を通して、観客の皆さんが自分自身を確認したり、近くにいる人との関係をもう一度見つめ直したりする機会になればと思います。

◎Interview & Text /稲葉敦子




10/3 SATURDAY  10/4 SUNDAY
第七劇場「サンカクと文明」

◎原作/夏目漱石「草枕」「三四郎」「明暗」などより
◎作/五戸真理枝(文学座)
◎演出・美術/鳴海康平
◎出演/木母千尋(第七劇場)、亀田佳明(文学座)、比嘉崇貴(文学座)、諏訪七海、はましゃか、牧山祐大(静岡県舞台芸術センター SPAC)
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/10月3日(土)14:00、18:00 10月4日(日)14:00
■料金(税込)/整理番号付き自由席 一般 前売¥3,000 当日¥3,500 22歳以下 ¥1,000(前売・当日とも)
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL. 059-233-1122
※未就学児入場不可